英語で被爆証言を続ける小倉桂子さん その思いを「心に留め受け継いでいく」アメリカの若者たちとの深い絆

8/2(金) 20:00

シリーズ被爆79年「残された時間」4回目、1人の被爆者の歩みを通して次世代にどう継承していくかを考えます。

今年4月、行われていたのは被爆証言者の委嘱式。
原爆資料館で自らの被爆体験を語る証言者は一時期より減り32人です。
その一人 小倉 桂子さん、86歳。
英語で語れる貴重な証言者です。
小倉さんが2年前、高齢をおして訪れたのはアメリカ北西部アイダホ州 130年以上の歴史を誇るアイダホ大学です。
2年前そこで行われたイベントに招かれました。「ヒロシマを忘れない」

【被爆者 小倉 桂子さん】
「顔はもうほとんどなく肌はやけただれたおびただしい数の人があらわれ、それはまるでゾンビや幽霊のようでした。将来の世代に核戦争を残したくないんです。私たちに何ができるか、一緒に考えましょう。一緒にやりとげましょう」

小倉さんは、さらに日本語クラスを訪れました。披露したのは自身の被爆体験の紙芝居。

【小倉 桂子さん】
「これは紙芝居です。そして、この物語の英語版を作ってください。私の経験をこの地域の小中学生にあなたたちが伝えてほしいの。なぜなら、あなたちは日本語ができる人たちだから」

現地での継承を依頼しました。
学生たちは、およそ半年間授業を通して翻訳をし、そこから平和の大切さを学んでいきました。そして、約束通り、英語版の紙芝居が完成。

<英語版の紙芝居>
「あたり一面真っ白になったと思った次の瞬間、台風のようなものすごい爆風がきてその衝撃でケイコは飛ばされた」

地元の高校生に継承しています。

【紙芝居を見たアメリカの高校生】
「私の視点を本当に変えてくれたと思います」
「もっと多くのアメリカ人が核爆弾について人々にどのような影響を与えたか学ぶべきだ」

英訳に取り組んだ学生は、卒業後、平和に関わる進路を歩むなど影響を受けました。

【領事館に就職したデヴェン・マイカリスさん】
「国際関係と、人と人をつなげる仕事がしたいです」
【政治家を目指しロースクールに進学するカイ・オメスさん】
「小倉さんには、これまで知らなかったことを教えてもらい、本当に学ばせてもらった。将来はロースクールに進学し、その上で世界の一部の利益だけでなく、全世界のことを考えて平和を促す仕事がしたい」

こうした小倉さんの学生への影響や、これまでの平和活動を評価する人たちの賛同が集まり、今年5月、アイダホ大学から小倉さんへ名誉博士号が授与されたのです。

【小倉 桂子さん】
「うれしい、感動しました」

小倉さんにとっては想像もしていなかった栄誉。一方で86歳の小倉さんに変化も。

【小倉 桂子さん】
「自分の人生ここまでと思ってきたけど、新しい自分の出発だと思いますね」

<叡啓大学・広島市>
この日、小倉さんは、大学の英語プログラムの授業の特別講師として招かれていました。
名誉博士号の授与を受け、小倉さんは意識を変えて臨んでいました。

【小倉 桂子さん】
「被爆者の一人として、かつてあった体験をお話すればいいと思ったけど、そんなんじゃないの、彼らの行く末を考えて、どういう風に進んでいくための示唆というか、ちょっとしたヒント。これからは、あなたが見つけて新しい時代を生きていってほしいと」

次世代が踏み出せるバトンの渡し方。

【小倉 桂子さん】
「あなたたちの番です。あなたたちは、今学んでいる。英語を学んでいるだけではなく、ヒロシマを学んでいるのです。私たちの思いを伝えることができる。私たちはもう長くは生きられない。あなたたちの番です。言葉は架け橋になるんだから。皆さん一生懸命勉強しているけど大切よ。full of life(元気いっぱい)full of lifeだからねlife(活力)を使って」

小倉さんがはじめた若い人への種まき。海外でも芽吹いていました。
アイダホ大学では、後輩たちも被爆の継承に取り組んでいます。
今年は、原爆市長と呼ばれた元広島市長 浜井 信三さんの想いを英訳しました。
来週、広島で研究を発表する予定です。
小倉さんの想いを繋ぐ学生はこう話します。

【領事館に就職したデヴェン・マイカリスさん】
「小倉さんが、いつかいなくなっても彼女の成し遂げたことが終わるわけじゃない。
彼女のメッセージは、何世代にもわたって伝わっていくと思います。日米両国の人々が彼女の使命を心に留め受け継いでいかなければなりません」

花開き始めた種。4日、87歳になる小倉さんは、名誉博士号を受け、遅咲きの教育者としても次世代の道を照らしていきます。

<スタジオ>
被爆者の声を聞いて、それをどう生かしていくか、もっと世界全体で考えていく必要がありそうですね。
【コメンテーター:叡啓大学・保井俊之 教授】
(財務省・金融庁出身 地域活性化などが専門)
「高齢化に伴って伝承が課題となっていますけれども、広島だけ、日本だけ、閉じるのではなくて、アメリカをはじめ世界へと、どんどんとネットワークを張っていくということが平和実現の早道のように思います」

アイダホ大学の学生たちは広島の洋菓子メーカーバッケン・モーツアルトのサポートで今週末来日し、平和式典に参列します。
5日(月)の午後4時から広島国際会議場内バッケンモーツアルトカフェで継承活動の研究成果を発表します。多くの方にお越しいただきたいと思います。ぜひお越しください。

7日(水)午前11時~ 宮島・大聖院