「被爆者なき時代」まで“残された時間”は5年、10年 「貪欲に聞いて貪欲に記録を」専門家が警鐘

8/6(火) 18:30

被爆者の数の推移です。
1957年に被爆者健康手帳が交付されるようになって以降、37万2264人と最多だった1981年から減少を続け、ことし3月末時点の被爆者の数は10万6825人と初めて11万人を切りました。
このグラフの先・・・必ず訪れる「被爆者なき世界」。
私たちが被爆者から直接、当時の状況や思いを聞ける「残された時間」はどのくらいあるのか専門家に話を聞きました。

【広島大学平和センター・川野 徳幸 センター長】
「8月6日、8月9日の被爆体験を直接被爆者の方々から聞ける時間っていうのは限られているということだけは間違いない」

川野氏は過去10年をみると毎年、平均しておよそ8600人の被爆者が亡くなっているといいます。
また、当時の惨状を記憶している被爆者となると、さらにその数は限られてくると指摘します。

【広島大学平和センター・川野 徳幸 センター長】
「これまで色んな調査をしたんですが、いわゆる記憶があって、被爆体験8月6日あるいは8月9日の様子を語るっていう年齢層というのは、やはり5歳とか学童に入ってからの年齢になる。ということは84歳くらい以上の被爆者が被爆体験を語れる年代なのかもしれない」

ことし3月時点の被爆者の平均年齢は85.58歳。
「被爆者なき時代」は間違いなく近づいています。

ことし4月、新たに自らの被爆体験を伝える「証言者」と被爆者や家族の体験を受け継ぐ「伝承者」に委嘱書が交付されました。

原爆資料館に登録されている「証言者」は2015年には49人いましたが、ことしは32人にまで減っています。
一方で、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、今年、新たに証言を始めた被爆者もいます。

才木 幹夫さん、92歳です。

【今年 証言を始めた被爆者・才木 幹夫さん(92)】
「90という年を自分で感じて、これはもう“急がなければいけない”ということで、でも年齢から考えて(語れるのも)あと4、5年しかないんじゃないか」

川野氏はこうした被爆者の思いを真剣に受け止め、つないでいくことが今、被爆地ヒロシマに課せられた大きな課題だといいます。

【広島大学平和センター・川野 徳幸 センター長】
「“核なき世界”という思いを多分私たちは継承できるんだろうと思う。ただ同時にあの悲惨な経験をしたことを直接体験者から聞くっていうことは難しくなる。(今、必要なことは)今後5年とか10年の間にやはり貪欲に聞いて貪欲に記録するっていうことだと思いますね」

<スタジオ>
「被爆者なき時代」というのが、いずれやってくるというのは以前から、本来わかっていることではあったんですが、改めてこの5年、10年という数字を聞くと、身につまされる部分もあります。

【コメンテーター:広島大学大学院・匹田 篤 准教授】(社会情報・メディア論が専門)
「本当に被爆者の方々から、直接話を聞きたい。またそれを記録する機会というのが本当に貴重な機会になってきているということは感じます。一方で、そういった語りのアーカイブス、証言のビデオだとか、記事だとか、番組とかありますけど、それをどう活用していくのかということを考えると、直接語りを聞いた世代、私達の世代が、このアーカイブスの利活用というものをもっと積極的に考えて、そして、私達が語り継いでいく。いうことが大切だと思うんです。もちろん私達そこにはAIだとかバーチャルリアリティとかもあるかもしれないんすけど、やっぱり私たち一人一人が伝えることで、私達自身も自分事として捉えていくっていうことに、繋がっていくんじゃないかと思います」