「生きづらさ」感じる若者が増加 評価社会が要因か 若者が「良い旅路」に出会えるよう寄り添う場所 広島

10/8(火) 20:30

”悩み”を抱える若者に農業を通じて支援を行う団体が広島市内にあります。
入社3年目の記者がそこで出会った一人の青年の想いに寄り添います。

【米谷昭代さん】
「そもそも大学に何の目的もなく入ってしまって、そのせいで大学に行っても面白くない生活で、生きづらさを感じていた。何かした方が良いだろうけど、何したらいいんだろうなみたいな」

「生きづらさ」という表現を使って話す若者が今、増えています。
残暑が続いていた先月中旬…そんな彼らの姿を見つめました。

こどもたちの笑い声が絶えないこの場所は、広島市安佐北区にあるNPO法人「ブエンカミーノ」です。
様々な理由で学校に馴染めなかった子どもたちが通うフリースクール事業と、生きづらさや悩みを抱える若者への支援事業を行っています。

【ブエンカミーノ・吉川望 代表】
「人生も絶対つまずくじゃないですか。絶対つまづくんだけども、もう一回始めようと思う。やっぱり若者たちに”良い旅を”って団体を作りたいと思ってブエンカミーノを立ち上げて」

スペイン語の「ブエンカミーノ」とは日本語で「良い旅路を!」の意味。
代表の吉川さんは農家を営んでいるため特に農業を通して若者への支援を行っています

カゴいっぱいに詰め込んだナスを運ぶ青年、米谷昭代(こめたに しょうだい)さん、22歳です。

【米谷昭代さん】
Q:毎日何時起き?
「5時半起きで6時出発とか」
Q:朝自分の手で採ったやつ?
「はい!僕ともう一人おじいちゃんがいて、その人と一緒に」
Q:ナス好き?
「ナス好きっすけど飽きた。ナスの唐揚げとかめっちゃ美味いけど」

【米谷昭代さん】
(※隣の子供に)「おいしい?おいしいな。うまい」

誰にでも優しく接し、真剣なまなざしで農業に取り組む昭代さん。
そんな彼も数年前までやりたいこと・成し遂げたい夢が見つからず、日々、もがいたといいます。
大学生活はコロナ禍の真っただ中、友人との関係は薄れ、知らない間に自分を追い詰めることが増えました。

【米谷昭代さん】
「SNSがあるせいで他人と比べやすい時代じゃないですか。よく言うのがインスタグラムのストーリーとかで充実した人たちを見て、自分はずっと家に居るみたいな劣等感を感じて、余計に外に出られなくなることはありましたね」

多くの若者が直面するSNSとの向き合い方。
苦しむ若者と長年向き合ってきた吉川さんも頭を抱える問題です。

【ブエンカミーノ・吉川望 代表】
「この時代の息苦しさとかはすごく感じますよね、彼らを見ていても。よく相談でもあるが、人の評価が気になってどう思われてるか怖いって。やっぱり評価に支配された社会だし」

”評価に支配された社会”
今の世の中を厳しい言葉で表現した吉川さん。
”評価社会”と彼らが呼ぶ社会の雰囲気…。
若者が生きづらさを感じる大きな要因だと指摘します。

【ブエンカミーノ・吉川望 代表】
「社会常識とか色々な支配の中で、自分の人生を選べない子たちはたくさんいる。その子たちが本当に、それで幸せになれなかった彼らの無念ってすごいんですよ。その支配に苦しんでる子たちがいるので、やっぱり絶対そうはしなくて支援をして行きたいんですよ」

昭代さんも”人からどう見られているか”に長く悩みました。

【米谷昭代さん】
「もう周りに合わせることばっかりで、うまいこと生きていけたらいいなみたいな。別に成功したいわけじゃないし、めちゃくちゃ貧乏になりたいわけじゃないし。ただ、もうなんとなくうまい感じに生きていた」

大学2年生の春、吉川さんの活動を偶然、知った昭代さん。
農業の経験はない、でも、自分を変えようと行動に移しました。

【米谷昭代さん】
「(農業は)成長していくのが目に見えて分かって、小さい苗から一番大きくなっていっぱいナスが取れて、ナスをいっぱい取って持って帰ったらおばちゃんたちが喜んで袋詰めしてくれる。何か人のためにすることの大事さ、人の役に立つことが自分の生きがいにもなったし、生きやすくなった」

今年春、昭代さんは大学を辞めました。
しかし、彼が浮かべる、この表情こそがその決断の答えなのかもしれません。

【米谷昭代さん】
「バイトで貯めたお金で南米のコロンビアとペルーに行ってアマゾン川に行った。めちゃくちゃ楽しいですね。やりたいことを自分で決める」

日に焼けた肌。
この場所で昭代さんが努力した確かな”証”です。
人との出会いが彼を前向きにしてくれました。

【米谷昭代さん】
「周りの人に恵まれたから、生きていかなあかんなって」

彼の成長を一番近くで見てきた吉川さん。
悩みを抱える若者の勇気ある一歩に社会も歩み寄ることが大事だと感じています。

【ブエンカミーノ・吉川望 代表】
「自分が無業状態の人たちはすごく居心地が悪いというか、でもそこにもう少し寛容さがあって、今せっかく自分がキャリアブレイクで、せっかく仕事をしていない自由な時間があって、何してもいいんです。自由なんだから。その時に色々なことに”チャレンジしてみよう”っていうような、そういう社会になってほしい」

吉川さんの願いを昭代さんも受けとめています。

【米谷昭代さん】
「やりたいことやって好きなように自分の人生、楽しみ方は人それぞれあると思うので、自分の一番楽しめる方法を追い求めて、少しずつ少しずつ一歩一歩、進んでいけたらいいなって僕は思います」

一度きりの人生。将来に迷ったりつまづきかけたりした時に、”良い旅路”と出会えるように「ブエンカミーノ」はいつまでも寄り添い続けます。