墓じまい「形が変わっても、先祖を敬う気持ち変わらない」 決断の背景にあるものは【老いゆく社会】

10/10(木) 20:30

番組がシリーズで地域課題に向き合っている「老いゆく社会」。今回はその第2弾、いま決断する人が増えているという「墓じまい」に注目します。

<映像提供:金子石材店「お墓チューブ」>
みるみるうちに解体されていく、墓。「墓じまい」です。
墓石を撤去する以外に踏むべき手順があります。

【住職】
「上木戸家累代の墓前を荘厳し懇ろに聖教を読誦して墓じまいの法要をお勤めいたします」

先月、坂町の高台の墓地で唱えられたお経…「墓じまい」を始める前の大切な仏事です。

【依頼者・上木戸和美さん】
「きのうはグルグル掃除をしながらお父ちゃんごめんねお父ちゃんごめんねと言って掃除しましたよ、ね仕方がない」

近くに住む上木戸和美さん、74歳。
今後を託す人がおらず5年間悩んだ末、江戸時代の墓石と、隣り合う、父が建てた墓をすべて撤去することにしました。

【依頼者・上木戸和美さん】
「奥が4つ、真ん中が3つ、手前が…」

少なくとも、曾祖父と曾祖母の代からの親族を含め10人分の遺骨が眠っています。

【依頼者・上木戸和美さん】
「家には私しかいない。きょうだいは妹がいますけど、妹は嫁いで先に出ていますし、上木戸の家のことはお姉ちゃんが全部決めてやってねと言われています。よしとしましょうよ。そのまま無縁墓にするわけにもいかないから」

少子高齢化や遠方に暮らす親戚が管理を断念するなどして、墓じまいの件数は全国的に増加傾向に。
墓石のあり方を見直した人は2022年度、過去最多を更新しました。

【五十川記者】
「狭いカーブ、2トントラックがスイスイと行きます」

上木戸さんの「墓じまい」を請け負う坂町の石材店も依頼数が前の年から急増したといいます。
広島県内にある多くの墓地は山の中腹や狭い道でしかいけません。

【金子石材店・金子幸希さん】
「こういう墓はですね。山の上にあることが多いので、こういう険しい道ばかり日ごろから運転しているので、みんな慣れっこというか、初めての人は驚きますけど」

1基あたりの相場は40万円から50万円ほど。
人力と専用の機材を組み合わせ重たい墓石を運び出します。

【金子石材店・金子幸希さん】
「あそこで解体をさせていただいて、小さな運搬車にのせて来て、あとは人力でかついで運搬車に乗せて、急な階段を下ろしていくという段取りになっています」

<合掌>
静かに手を合わせます…。「墓じまい」の開始です。

【依頼者・上木戸和美さん】
「天保のころからのよ、これ、いいコケがついているじゃん。残念ですが申し訳ないですね。
あとはよろしくね」
【金子石材店・金子幸希さん】
「承知しました」
【依頼者・上木戸和美さん】
「私じゃどうにもならんけん」

先祖への申し訳なさ。そして、肩の荷が下りていくような複雑な思いが心にのしかかります。

【依頼者・上木戸和美さん】
「いろいろあったから早く終わってほしいというのが本音です。大変でした。事務的なことも金銭面も、経済的なことも終わってしまえば終わりですけど」

<作業開始>
まず、江戸時代の小さな墓石から「墓じまい」をします。
1個あたりの70キロほどの重さがある仏石も少しずつ取り外し、運んでいきます。

【金子石材店・金子幸希さん】
「あるとしたら土台のところに一緒に埋めて、お墓を立てているという可能性がありますので、お骨が出る可能性はあります」

大きな墓の中に遺骨は確認できますが、他にも残っている可能性があります。

【依頼者・上木戸和美さん】
「昔のことだから、わからないことがあるよね」

スコップで慎重に掘り進めると…

【依頼者・上木戸和美さん 金子幸希さん】
「あった。本当じゃ。そんな感じがする」
「これはお骨です」

骨壺に入っていない名前もわからない先祖の遺骨が…

【依頼者・上木戸和美さん】
「どっさり出てくるんじゃない?これだったら。砂と混じっているんで、わからないですけど、(小さな)お墓が5基あったんで、まだまだ」

大切に・・・土ごと持ち帰ります。

<大きな墓 三脚クレーンで作業>
「いいよ、いいよ。いいよ。ゆっくり縮めようか」

大きな墓からも骨壺を取り出しました。

【金子石材店・金子幸希さん】
「お骨をもって帰らせていただきますね」
【依頼者・上木戸和美さん】
「さらば、さらばじゃね。雨が降るし」

遺骨は自治体の許可なく移動させることはできません。
広島県によると、県内では散骨に明確な法的根拠や条例がなく、基本的に国のガイドラインに基づいて安易に埋めたり、まいたりできない状況になっているといいます。
そのため、上木戸さんは自ら手続きをして、近くの寺の納骨堂に遺骨を引っ越すことにしました。

【西林寺・河野行昭 住職】
「一番大事なことは、どうすれば(お墓を)維持できるかということ以上に、そこに行って手を合わせることが叶うかということを考えていく必要があるのかなと」

さらに…解体した墓石は名前を削り、別の工場で細かく砕かれます。

【金子石材店・金子幸希さん】
「プレッシャーはあります。どの石屋さんもそうだと思いますけど、お骨が入っていた場所ですので、少しでも安心して依頼をしてもらえるように弊社としても力を合わせて墓じまいに取り組んでいる最中でございます」

作業を始めてから3日…。墓があった場所はなにもなくなりました。

【依頼者・上木戸和美さん】
「安心。すごく安心よ。どうしようかどうしようか悩む期間も長かったしね。そんなに深くあれこれ考えたら、これはできないかもわからんね。これが私の仕事と割り切らんと」

少子高齢化を背景に増えていく「墓じまい」という一つの決断。
しかし、形が変わっても、先祖を敬う気持ちは今も昔も変わることはありません。

<スタジオ>
「墓じまい」に関して「墓じまい」をしたいと思うか、どうか、について民間企業の調査が出ています。「思う」という方が、およそ7割。そして「思わない」という人は、およそ3割ということなんですけれども、それぞれの理由、どういったものが多いのか見てみましょう。

まず初めにしたいと思う方はやっぱり「維持管理・墓参りが大変」それから「跡継ぎがいない」ですとか、自分たちの「子供に負担がかかってしまう」こういったところを懸念される方が多いようです。一方で「思わない」という方は、「まだしばらく維持管理ができる」それから「先祖代々の墓だから守りたい」というところと、やっぱりご自身の「心のよりどころ」として残したいという方も多いようです。

時代とともに形は変わりますけれども、本当にこの「墓じまい」増えているという現実があるわけですね。

【コメンテーター:元 広島東洋カープ 安部友裕さん】(15年間にわたって広島東洋カープで活躍)
「これは、その家庭事情にもよるとは思いますけど、やっぱり高台にあったり急な斜面にあったりとか、体の負担も考えたり、経済的負担、いろんな負担がかかってくると思うんですよ。それを考えると新たなこのお墓のあり方っていうのは、この時代背景を考えるとこれも一つありなのかなっていうのは感じます」

家族構成、どこに住んでいるかというのもポイントになるんでしょうか。新川さん、住職もおっしゃっていたように、ちゃんと手を合わせられるかどうか、このあたりもちゃんと考える必要がありますよね。

【コメンテーター:JICA中国 新川美佐絵さん】(青年海外協力隊などを経験し現在はSDGsの啓発活動を行う)
「そうですね。『墓じまい』する人のその申し訳なさっていうのも、すごい痛いぐらいわかるんですよね。でもやっぱりこういう時代だからこそ、一つほっとしたいという気持ちを与えてくれるのは、もしかしたら、ご先祖様からのプレゼントなのかなって、そういう考え方もして行く時代なのかなと思いますね」

ご先祖様も、今を生きる我々の幸せを願っているでしょうから、この辺り、しっかりと家族で話し合って、いろいろな形を模索していければいいのかなと思います。