1年に19000人が行方不明に 認知症の妻を2年近く探し続ける夫 「墓参りに行った後いなくなった」

2/11(火) 20:30

久保しげみさん(行方不明当時63歳)おととし4月から行方が分かっていません

おととし、認知症で行方不明になった人の数は過去最多に上りました。
増加する認知症の高齢者を今後どう支えていくのか?行方不明になった妻を今も探し続ける夫の姿を見つめました。シリーズでお伝えしている【老いゆく社会】第6弾です。

警察署が呼び掛けている行方不明になった人の情報。
久保しげみさん(行方不明当時63歳)
認知症があり、おととし4月から行方が分かっていません。
夫の敦男さん65歳です。
今も妻を探し続けています。
この日、敦男さんは行方不明者届けの更新を行いました。

どこに行ったんだろう

【久保敦男さん(65)】
「山口県、岡山県、島根県に行っていた場合、捜索願いの情報は共有される?」

【警察官】
「全国手配となっています」

【久保敦男さん(65)】
「どこに行ったんだろう。どこかで亡くなっていれば発見されるだろうし」

しげみさんは58歳のとき、認知症と診断されました。
1週間前のことが覚えられず、娘や孫の顔が分からなくなることがありました。
妻が担っていた家事は今、敦男さんがしています。

【久保敦男さん(65)】
「妻はラーメンが好きだった。必ずラーメンを食べに行っていました」

しかし、あの時からラーメンを一緒に食べに行く願いは叶っていません。
敦男さんはおよそ40年前からCMの制作会社でディレクターを務めています。
当時、仕事が忙しかった敦男さんは帰りが遅くなる日が多く、子供と会う時間はほとんどありませんでした。

【久保敦男さん(65)】
「あまり子育てをしていなかった。今だと怒られそう。妻は何でも一人でやってくれた。感謝しかない。子供を育ててくれてありがとう」

今だからこそ思う妻への感謝。
しかし、それを伝えることはできないままです。

認知症や軽度認知障がいがある人で行方不明になった人は全国でおよそ1万9000人

警察庁によりますと、認知症や軽度認知障がいがある人で行方不明になった人の数はおととし、届け出があっただけでも、全国でおよそ1万9000人に上ります。これまでで最も多くなりました。

しげみさんが行方不明になったのは、おととし4月、広島県坂町で墓参りに訪れたときです。
親族たちが大勢集まったこの日、敦男さんは妻の異変に気付いていました。

手がかりがない。探しようがない

【久保敦男さん(65)】
「小さい子たちが自分の孫という認識がなかったのではないか。妻は久しぶりでうれしいはずだけど、うれしそうではなかった。気がつかないうちに認知症が進んでいた。墓参りが終わって、実家まで帰る道、一人で先に降りた」

敦男さんは孫たちの手を取りながら、近くにある自分の実家に戻りました。
しかし、家のどこを探しても妻の姿はありませんでした。

【久保敦男さん(65)】
「ここに妻は帰っていると思った。先に歩いて降りていったから。いないからやばいなと(思った)」

敦男さんはすぐに警察に通報し、捜索が始まりました。
すると、墓からおよそ6キロ離れた場所にある防犯カメラに妻の姿が・・・。
しげみさんは呉市方面に向かって歩いていました。

【久保敦男さん(65)】
「ここから先の行方が全く分からない。手がかりがない。探しようがない」

元気に暮らしてくれていたらいい

妻はどうしていなくなったのか。
専門医は認知症が行方不明につながる可能性を指摘します。

【廿日市野村病院・野村陽平 理事長】
「認知症の方の中で、位置感覚が分からなくなる特徴がある。どこかに最初は行こうと思っていたかもしれないが、行っている途中でどこに行っていたんだろうと目的を忘れてしまう。名前・住所・配偶者・子供のことを伝えることができない場合、生存してどこかで暮らしているなら情報がない中で周りの人が支援している」

警察の捜索が終わった後も敦男さんは一人で呉市方面の様々な場所を探しました。
この日、訪れたのは倉橋島にある妻の実家。
付近の人たちに話を聞きます。

【久保敦男さん(65)】
「認知症を患っていて行方不明になって、もしかしたら、ここに帰るかも」

【住民】
「見たことない」

【久保敦男さん(65)】
「美味しい物を食べて、何不自由なく自分が誰か分からないかもしれないけど、元気に暮らしてくれていたらいい」

高齢化が進む中、急増すると言われている認知症。
そして、認知症に伴う行方不明者の増加。
社会は、家族はこの避けられない現実にどう向き合っていけばいいのか。家族は今も帰りを待ち続けています。

『情報提供』海田警察署 082-820-0110

<スタジオ>
認知症による行方不明、匹田さん、これ決して他人事ではないというふうに考える必要がありますよね。
【コメンテーター:広島大学大学院・匹田篤准教授】
「そうですね。まだ若いですし、私の関東地方の友人が、先週、道に迷っている高齢者、といっても60代ぐらいの人に声を掛けたら、目的地が3時間ぐらい歩かないと着かないようなところで、どうもおかしいということで、話を聞いてみると認知症らしいということで、警察の方に連絡をして、そこから先はお願いしたっていうことがあったんですけど、見た目はわからないですし、子どもだったら迷子ってことになるんですけど、今、そういう意味で、道迷ってる人とか困ってる人がいたら、私たち勇気を出して、どんどん声をかけるっていうことをやっぱりした方がいいなっていうふうに改めて思いました」