「殺害も解体もしていません」犯行を認めていた男が否認に転じた理由 広島市佐伯区バラバラ殺人(前編)
3/12(水) 20:00
法廷に現れたのは、凶悪な犯罪で罪に問われているとは思えない、やせ形でおとなしそうな男だった。初公判で起訴内容を問われた男は「自分は殺していません。解体もしていません。2度にわたって捨てたことは認めます。」背筋を伸ばしハキハキとした声で答えた。逮捕後の取り調べで一時は容疑を認める供述をするものの、その後二転三転させたという男。裁判で明らかになったのは盲目的ともいえる家族への思いだった。
知人男性を殺害して遺体をバラバラに切断して遺棄したとして殺人・死体損壊・死体遺棄の罪に問われた広島市佐伯区皆賀の無職・渡部大地被告(32)に13日、判決が言い渡される。注目の裁判の経緯や争点を振り返る。
知人男性を殺害して遺体をバラバラに切断して遺棄したとして殺人・死体損壊・死体遺棄の罪に問われた広島市佐伯区皆賀の無職・渡部大地被告(32)に13日、判決が言い渡される。注目の裁判の経緯や争点を振り返る。
若い女性が傍聴席を占める初公判 【2025年2月21日(金)】
約60席ある広島地裁の法廷は、傍聴人で埋まった。これまで筆者は取材で何度も裁判を傍聴してきたが、傍聴席には20代くらいの若い女性が多く占めていたのが印象的だった。そこに姿を見せた渡部被告は身長175~180cm、やせ型の体型とおとなしそうな印象も相まって、この残虐な犯罪とは似つかわしくなく感じた。しかし裁判長から名前や住所を問われると背筋を伸ばし、ハキハキとした声で答えた。
起訴状などによると渡部被告は2021年10月29日~30日、広島市佐伯区千同にある祖母の家で祖母の交際相手だった植木秀俊さん(当時70歳)の顔面を庭にあったコンクリートブロックで殴って殺害。遺体を風呂場に運び、台所にあった包丁で植木さんの遺体を切断し、上半身と下半身を祖母方の庭に埋め、両腕・両脚は佐伯区内の海岸で投棄。庭に埋めていた遺体の一部も2023年4月下旬に庭から掘り起こして海岸で投棄した罪に問われている。
起訴状などによると渡部被告は2021年10月29日~30日、広島市佐伯区千同にある祖母の家で祖母の交際相手だった植木秀俊さん(当時70歳)の顔面を庭にあったコンクリートブロックで殴って殺害。遺体を風呂場に運び、台所にあった包丁で植木さんの遺体を切断し、上半身と下半身を祖母方の庭に埋め、両腕・両脚は佐伯区内の海岸で投棄。庭に埋めていた遺体の一部も2023年4月下旬に庭から掘り起こして海岸で投棄した罪に問われている。
2021年11月に山口県周防大島町で遺体の右脚が、そして2023年4月末には佐伯区の公園で遺体の上半身が発見され、その後のDNA型鑑定で植木さんと特定された。捜査によって渡部被告の関与が強まり、事件から2年ほどが経った2023年10月、広島県警は渡部被告を逮捕した。
逮捕当初は事件の関与について認める供述をしていた渡部被告。しかし初公判で裁判長から起訴内容の認否について問われると。
【渡部被告】
「自分は殺していません。解体もしていません。2度に渡って捨てたことは認めます」
【渡部被告】
「自分は殺していません。解体もしていません。2度に渡って捨てたことは認めます」
犯行は「黒いジャンパーを着た男」によるものだ
冒頭陳述で検察側は「渡部被告が祖母の家で植木さんと鉢合わせとなった際、植木さんから生活態度や家族に対する悪口を言われたため犯行に及んだ」と指摘。植木さんが祖母方まで乗ってきた車を別の場所に移したことも明らかにした。また、渡部被告は逮捕前の任意取り調べで「2人組の男主導による犯行」と否認していたが、母と姉に対し「自分がやった」と説明し、その後の警察・検察の取り調べでも自らの犯行を認める供述をしていたとした。
ただ、拘留中に届いた姉からの手紙を読んで、「黒いジャンパーの男による犯行だ」として再び、否認するようになったと説明した。一方、弁護側は「殺害と損壊は40歳すぎの面識のない男によるもので、遺棄もその男から指示された」と主張した。
ただ、拘留中に届いた姉からの手紙を読んで、「黒いジャンパーの男による犯行だ」として再び、否認するようになったと説明した。一方、弁護側は「殺害と損壊は40歳すぎの面識のない男によるもので、遺棄もその男から指示された」と主張した。
この裁判で検察側が示した争点は以下の通りである。
(1)被害者を死亡させ、死体を損壊したのは渡部被告か
(2)渡部被告に殺意があったか
(1)被害者を死亡させ、死体を損壊したのは渡部被告か
(2)渡部被告に殺意があったか
「頭蓋骨はむき出しで破壊された状態」医師が語った無残な遺体の状況
初公判では遺体を検視した医師の証人尋問も行われた。
【検視した医師】
「遺体は腐敗がかなり進んでいた。死後かなり時間が経過し、頭蓋骨はむき出しで破壊された状態だった。正面も大きく凹んでいて、鼻骨がどれか分からないくらいだった。頭蓋骨が激しく損傷していたことから、大きなエネルギーを持った物体がぶつかったと思われる。また首の骨は、顔などを前から思いっきり叩かれて出来たとされる骨折があった。胸には鋭利な刃物でできたとみられる刺し傷があった。ただこれは血液の状況などから死後に刺されたものと推定した。これらの状況から致命傷となったのは顔面を殴られたことによるものだ。」
【検視した医師】
「遺体は腐敗がかなり進んでいた。死後かなり時間が経過し、頭蓋骨はむき出しで破壊された状態だった。正面も大きく凹んでいて、鼻骨がどれか分からないくらいだった。頭蓋骨が激しく損傷していたことから、大きなエネルギーを持った物体がぶつかったと思われる。また首の骨は、顔などを前から思いっきり叩かれて出来たとされる骨折があった。胸には鋭利な刃物でできたとみられる刺し傷があった。ただこれは血液の状況などから死後に刺されたものと推定した。これらの状況から致命傷となったのは顔面を殴られたことによるものだ。」
裁判では、発見された遺体の上半身の写真が証拠として提出され、傍聴席からは見えないように裁判官らのモニターに映されていた。しかし傍聴席1番前方に座っていた筆者は検察官が持っている写真が見えてしまった。両肩がそぎ落とされ、白骨化した遺体も漂流されたのが原因か、緑や茶色に変色していて、医師が証言するように、顔面の部分が破壊されているのが確認できた。見るも無残な姿で、筆者にとってトラウマになりそうだった。
「見捨てんとってね。じゃあ俺がやった」家族に打ち明かした事件の概要【証人尋問 2月26日(火)】
第2回公判となったこの日はまず母親の証人尋問が行われた。渡部被告は事件前まで佐伯区内で母親と暮らしていて、3歳上の姉が東京で暮らしていた。また植木さんと交際していた祖母も渡部被告の自宅から近い場所に住んでいて、渡部被告は家族全員と大変仲が良かったという。検察側は渡部被告が逮捕前に母や東京に住む姉に説明した場面について質問した。
【検察】
「被告とは初めにどんな話をした?」
【渡部被告の母】
「最初は祖母の家で植木さんと鉢合わせになり、挨拶の仕方で口論になった。植木さんを突き飛ばすと、階段の角に頭をぶつけた。その後謝って和室に連れて行ったが、そこでも口論になった。大地は一旦、家から離れたが、様子が気になって戻ってきたとき、2人組の男が入ってきたと聞いた。」
【検察】
「2人組の男の特徴は?」
【渡部被告の母】
「40~50代くらいで見知らぬ人だと聞いた。“金属バットで殴れと言われた”と話していた。」
【検察】
「話を聞いてどう思った?」
【渡部被告の母】
「“そんな偶然はあるのか?本当のことを話さないと大変なことになるよ”と強く問い詰めた。その後、東京に住む大地の姉と電話を繋いで3人で話した。」
【検察】
「姉は大地に対して何を言っていた?」
【渡部被告の母】
「私と同じように問い詰めていた。すると大地が“見捨てんとって”と言った。
私たちが“見捨てないよ。二人組の男がやったのは違うでしょ?”と聞くと、大地は“じゃあ俺がやった”と俯きながら涙を浮かべてポツポツと質問に答えていた」
【検察】
「今、どんな心境?」
【渡部被告の母】
「息子に会いたかった。こんなに会えないことはなかった。息子の顔を見たいという思いが最初だった。」
「被告とは初めにどんな話をした?」
【渡部被告の母】
「最初は祖母の家で植木さんと鉢合わせになり、挨拶の仕方で口論になった。植木さんを突き飛ばすと、階段の角に頭をぶつけた。その後謝って和室に連れて行ったが、そこでも口論になった。大地は一旦、家から離れたが、様子が気になって戻ってきたとき、2人組の男が入ってきたと聞いた。」
【検察】
「2人組の男の特徴は?」
【渡部被告の母】
「40~50代くらいで見知らぬ人だと聞いた。“金属バットで殴れと言われた”と話していた。」
【検察】
「話を聞いてどう思った?」
【渡部被告の母】
「“そんな偶然はあるのか?本当のことを話さないと大変なことになるよ”と強く問い詰めた。その後、東京に住む大地の姉と電話を繋いで3人で話した。」
【検察】
「姉は大地に対して何を言っていた?」
【渡部被告の母】
「私と同じように問い詰めていた。すると大地が“見捨てんとって”と言った。
私たちが“見捨てないよ。二人組の男がやったのは違うでしょ?”と聞くと、大地は“じゃあ俺がやった”と俯きながら涙を浮かべてポツポツと質問に答えていた」
【検察】
「今、どんな心境?」
【渡部被告の母】
「息子に会いたかった。こんなに会えないことはなかった。息子の顔を見たいという思いが最初だった。」
一方、弁護人や裁判員は渡部被告がこれまで歩んできた人生について質問した。
【弁護人】
「小学校時代の大地さんの様子は?」
【渡部被告の母】
「軽い自閉症と発達障害があったので特別支援学級にいた。小学3年ぐらいから靴を隠されたり、クスクス笑われたりと、周りの人からいじめられていた」
【弁護人】
「中学時代は?」
【渡部被告の母】
「特別学級に行っていることなどでコソコソ言われる頻度が増えて、同じくイジメを受けていた。」
【弁護人】
「高校は?」
【渡部被告の母】
「主に引きこもりの子どもたちがいく学校に行った。おとなしいほうだったと思うが小中学校の時に比べると楽しめた方ではないか」
【弁護人】
「車に興味を持つことはあった?」
【渡部被告の母】
「全く興味がなかった。免許を取りたいと言うことは1度もなかった」
【裁判員】
「渡部被告が事件前に他人と喧嘩することはあった?」
【渡部被告の母】
「全くない。揉め事を避けるタイプで声を荒げたこともなかった。」
母親が立つ証言台の周りには遮蔽板が置かれ、傍聴席からは母親の表情を見ることはできなかった。久しぶりの再会となったようだが、渡部被告は表情を何1つ変えず証言台の方を見つめていた。
後編では、渡部被告が供述を変えたきっかけとされる『姉の手紙』や、『黒いジャンパーを着た男』の正体について掘り下げる。
【弁護人】
「小学校時代の大地さんの様子は?」
【渡部被告の母】
「軽い自閉症と発達障害があったので特別支援学級にいた。小学3年ぐらいから靴を隠されたり、クスクス笑われたりと、周りの人からいじめられていた」
【弁護人】
「中学時代は?」
【渡部被告の母】
「特別学級に行っていることなどでコソコソ言われる頻度が増えて、同じくイジメを受けていた。」
【弁護人】
「高校は?」
【渡部被告の母】
「主に引きこもりの子どもたちがいく学校に行った。おとなしいほうだったと思うが小中学校の時に比べると楽しめた方ではないか」
【弁護人】
「車に興味を持つことはあった?」
【渡部被告の母】
「全く興味がなかった。免許を取りたいと言うことは1度もなかった」
【裁判員】
「渡部被告が事件前に他人と喧嘩することはあった?」
【渡部被告の母】
「全くない。揉め事を避けるタイプで声を荒げたこともなかった。」
母親が立つ証言台の周りには遮蔽板が置かれ、傍聴席からは母親の表情を見ることはできなかった。久しぶりの再会となったようだが、渡部被告は表情を何1つ変えず証言台の方を見つめていた。
後編では、渡部被告が供述を変えたきっかけとされる『姉の手紙』や、『黒いジャンパーを着た男』の正体について掘り下げる。