親なき後に「強度行動障がい」の弟を支えたい 障がいある兄が就職活動に再び挑戦 シリーズ「老障介護」

3/27(木) 21:00

シリーズ「老いゆく社会」です。
番組ではこれまで高齢の親が障がいのある子供を介護する、いわゆる「老障介護」の問題を取り上げてきました。
1年前、就職を希望しながらも採用試験に落ち続けた障がいのある兄が就職活動を再開。その姿を見つめました

九内勇輝(くない ゆうき)さん。
物を壊したり他人を傷つけたりする「強度行動障がい」があります。
家族で、その障がいに向き合ってきました。

勇輝さんは3歳の頃、発育が遅いことを保育士から告げられ、医療機関で自閉症があることが分かりました。

勇輝さんの兄・誠洋(まさひろ)さんです。
誠洋さんにも障がいがあり、気持ちが落ち込みやすいという症状があります。
医療機関で自閉症と診断されたのは、2歳の時。
両親は、これまで、障がいのある兄弟2人を育ててきました。
両親が仕事に出かけ兄と弟2人だけの自宅。

【九内誠洋さん】
「両親がいなくなった後の弟のことが心配。自分が弟のことを支えながら生きていくことはかなり難しい。そうなったらどうしたらいいんだろう。2人分の生活費を稼ぐとなるとそれなり以上の賃金が必要。不安はでかい」

将来、両親がいなくなった時、障がいのある弟を見守るのは自分しかいない。
誠洋さんは、その覚悟を決めています。
1年前、誠洋さんは民間企業の障がい者雇用枠で就職することを目指していました。

しかし、試験を受けた10社以上の企業から採用の知らせは来ませんでした。
障がい者の雇用を巡っては国が40人以上の従業員がいる民間企業に対し、従業員数の2.5%以上の障がい者を雇用するよう義務づけています。
しかし、雇用される障がい者の中で自閉症など精神障がい者が占める割合は特に少なく、広島県全体で見るとわずか2割にとどまっています。

【誠洋さん】
「精神障がい者のイメージとしてかんしゃくがあったり、手が出るイメージがどうしてもある。それだと怖いと思う。殴るイメージがある人を雇いたくないという気持ちは、自分が雇う側の立場としても自然なこと。言っていてつらいな」

誠洋さんは今、就労継続支援A型と呼ばれる事業所で介護職を目指して勉強をしています。
ここでは障がいのある人に働く機会が提供され、民間企業への就職もサポートしてくれます。
利用者には最低賃金以上の給料が保障されていますが、誠洋さんの思いは複雑です。

【誠洋さん】
「A型作業所は実家で生きていく賃金はあるが、将来父親が亡くなった後一人で過ごせない。民間企業の障がい者雇用枠に入りたい」

【父・康夫さん】
「両親はゆう君(弟)とどれくらい一緒に住めるか分からない。覚悟している。まー君に(弟と)一緒に住んで支えてもらおうと思っていない。自分のやりたいことをやってもらいたい」

【母・知子さん】
「弟のために諦めるのではなく、挑戦するのを諦めてほしくない。まー君ならできると信じている」

弟のためだけではなく、自分の人生を生きてほしい。両親の願いです。

《写真館で撮影》「1回練習。少し顔を下にしてみましょう。表情がかたい」

誠洋さんは2度目の就職活動を始めました。

【誠洋さん】「現物よりはいい男」

誠洋さんが障がい者の雇用枠で就職を希望しているのは専門学校の事務員。

【専門学生】
「ゆっくり座ってください。大丈夫ですか?」

この学校では介護福祉士を目指す留学生が、介護や日本語の知識を身に着けることができます。
この日、誠洋さんは学校を運営する会社で面接試験に臨みます。

【誠洋さん】
「失礼します」

自分の人生をこれからどう生きていくのか。
誠洋さんには親の思いとは裏腹に譲れない信念があります。

【ダイキグループ・板橋正志取締役】
「将来この会社で何をしたい?」

【誠洋さん】
「自分の家族に強度行動障がいのある弟がいる。その関係でB型作業所、多機能の介護職に興味を持った。携わっていきたい気持ちがある」
「弟のことがある。父親に2人分を背負わしたくない。経済的に自立できる賃金がほしい。1人暮らしを視野に入れている」

【ウェルテック専門学校・山田武志センター長】
「私が22歳の時、そんなにちゃんとした考えはなかった」

【誠洋さん】「ただいま」

この日、誠洋さんに面接結果の連絡が届きました。

【誠洋さん】「仕事の終わり際にダイキから電話があった。内定の電話をもらった」
【康夫さん】「よかった」
【誠洋さん】「肩の荷が下りた」
【康夫さん】「今からよ」

誠洋さんが結果を伝えたい人がもう一人。

【康夫さん】「お兄ちゃんから重大発表がある」
【誠洋さん】「面接行って合格した」
【勇輝さん】「おめでとう」
【誠洋さん】「ありがとう」

他の障がい者と比べても雇用される機会が少ない精神障がいのある人たち。
少しでも安心して暮らせる未来がやってくることを家族は願っています。

【コメンテーター:JICA中国・新川美佐絵さん】
「こういう話を普段から話せる環境はすごく素晴らしいと思います。私は、国際会議の場で障がいのある方が自分たちに関わることを決めるときに、自分たち抜きで話してくれるなと宣言をされたことがあります。まさに誠洋さんに障がいがあり、また障がい者家族という当事者性を生かして客観的に社会を見ていること。親に負担をかけたくないという優しさ、思いやりは誠洋さんの個性であり魅力であると思います。そういうところを活かせる会社に就職が決まったことはすごく未来が明るいなと思いました」