健康基礎知識

子どもの視力にサイレン!

 子どもたちの自由時間が増える夏休み。時間を忘れてポータブルゲームやパソコンに熱中する様子を見ると、視力の低下が心配になります。学校検診医を務める眼科専門医、小森玲子先生に、子どもの視力低下を予防する方法を教えていただきました。
子どもの視力低下の現状は?
 文部科学省が行った平成24年度学校保健統計調査で、裸眼視力1.0未満の割合が増加しているとの報告がありました。学校検診に伺うと、確かに眼鏡をかけるお子さんは年々増えてきているように感じます。とはいっても世の中がIT化してきて久しくなりますので、ここ10年で見て急激に増えたというほどではありません。
 小学校高学年児童が視力低下で眼科受診するラインは視力0.7未満です。学校の眼科検診では、C判定(視力0.3~0.6)のお子さんに眼科受診通知を出していただいています。運転免許を取得できる視力基準も0.7以上ですから、社会的基準と考えられます。
 教室にいる時のことを考えてみると、席の位置にもよりますが、0.7以下だと教室の黒板に書かれた小さい字や赤チョークで書かれた文字が見えにくくなります。両眼開放時視力が0.7未満になったら、眼鏡を作ることを保護者の方にお勧めしています。
 最近気になるのは「弱視」です。発見が遅くなるほど視力の回復が難しくなります。弱視は、子ども本人が気づいていない、親もいつか治るだろうと気にしていないことも多く、集団で行う視力検査で分からない場合もあります。就学時検診で視力低下が見られたら、必ず眼科受診をしましょう。

仮性近視と正視/ 軸性近視
視力低下の原因は?
 視力低下の原因は、主に次のことが挙げられます。
1、テレビ、ゲームやパソコンの長時間使用
2、姿勢が悪く、読書や書き物で目を近づけすぎる
3、テレビを見るときの距離が近すぎる
4、暗い場所で読書やポータブルゲームをする
5、偏食による栄養不足
6、睡眠不足やストレス、精神的なものなど
 子供の視力低下は、「仮性近視」という状態から始まります。仮性近視とは、目の使いすぎによる疲れで見えにくくなっている状態。眼の中にある水晶体を厚くしたり薄くしたりしながら、遠近の調節をつかさどる目の筋肉「毛様体筋」が一時的に緊張している状態です。筋肉の緊張を目薬や目のトレーニングでほぐすと、視力が回復する可能性があります。
 毛様体筋が緊張状態を長い間持続できなくなると、眼はだんだん調節力を緩和するために近見時に網膜に焦点が合うように眼が後ろに伸びて大きくなっていきます。これを「軸性近視」といいます。毛様体筋が緩んでも視力は戻らなくなり、眼鏡などが必要になってきます。日常生活の中で、子どもがよく目を細めている、テレビを近づいて見たがるようなことがあれば、一度眼科を受診してみてください。
軸性近視になると、どうなる?
 眼鏡などが必要な軸性近視では、眼全体が後ろに引き伸ばされて大きくなり、網膜の周辺部が薄くなります。目をぶつけたりすると網膜に裂けめができて(網膜裂孔)、「網膜剥離(はくり)」になることがあります。また高度近視では網膜色素上皮という組織が薄くなって「網脈絡膜萎縮」という状態に。網膜の中心部が薄くなるため、矯正しても視力が出なくなることがあります。
 スポーツをしている子どもたちは、使い捨てのソフトコンタクトレンズを装用している場合が多いと思います。度数を簡単に交換できるメリットもありますが、角膜炎や結膜炎、角膜潰瘍などになるリスクが、コンタクトレンズを装用しない人よりも何倍も高くなります。また、目に優しいといわれているハードコンタクトレンズでも、20年以上使用すると眼瞼下垂をかなりの頻度で起こすことが分かってきています。
視力低下を予防するには?
 高度近視は遺伝によるところが大きいと思われますが、中等度以下の近視は生活習慣を変えればある程度視力低下を防ぐことができます。
 テレビやゲーム、パソコンを長時間しないこと。どうしても必要な場合は1時間に1回程度休憩をとり、目を休ませます。
 読書や書き物、ゲームやパソコンなどをするときは、30㎝ほどの間隔をあけます。テレビは2m離れるといいと言われていますが、住宅事情に応じてなるべく離れてください。「お母さんにおこられるから…」と布団の中でこっそりゲームをするお子さんもいるようです。暗い場所でのゲームや読書は余計に目に負担をかけるので、明るい場所で行いましょう。
 睡眠時間をよくとることも大事です。睡眠中は部屋の電気はつけないで暗くします。薄明かりをつけていると、目が休まらず近視化することが動物実験などで分かっています。昔から言われている「遠くの山を見ると目がよくなる」のはその通りで、目の調節力を休ませることができます。遠くの景色や星空を1日20分くらい眺めるとよいでしょう。
 また食べ物の好き嫌いで視力が低下することがあります。ビタミンAやビタミンB群の欠乏は、夜盲や視神経炎などをおこし視力低下の原因となることがあります。
 原因不明の視力低下(矯正しても視力がでない)の一因として、心因性も考えられます。思春期の不安定な精神状態、いじめの問題、新しい家族が増えたことで親に甘えたいなどの気持ちから、視力低下が身体症状として現れることがあります。その場合は心のケアが必要です。学校にいるスクールカウンセラーに心の悩みを打ち明けるのは、子ども自身抵抗がある場合もあります。家族の見守りや声かけが必要でしょう。
小森玲子さん
広島市安佐北区医師会理事。旧千代田町・豊平町・芸北町(現北広島町)の小学校検診医。QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の向上を第一に考えた治療とケアを目指す。
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