健康基礎知識

中・高学年からみられる「起立性調節障害」

 思春期に集中して見られる「起立性調節障害」。朝、起きられないために学校に行けなかったり、夕方には症状が回復するため怠けていると誤解されたりと、本人が苦しい思いをしていることがあるようです。この症状にどう向き合えばよいのか、ますだ小児科の増田宏先生に聞きました。
小学校高学年で多いのはなぜ?
 起立性調節障害とは自律神経系の不調により、さまざまな症状を生じる状態です。血流や血圧の調節をつかさどる自律神経がうまく働かず、起床時に脳の血流が維持できなくなり、立ちくらみが起きたり、気分が悪くて倒れてしまうことがあります。
 この症状は、小学生の中・高学年からみられ、中学生では約1割にみられるといわれています。決して珍しいものではありません。成長期の身体の発達に自律神経系の発達が追い付けないためと考えられ、成長が落ち着くと症状も落ち着くと考えられています。また、もともとストレスに敏感な体質がかかわっていることがあると考えられています。
 次のような症状がみられたら「起立性調節障害」の可能性が高まります。ただし、表1のような症状がみられたとしても、けんたい感や食欲不振の程度のとらえ方は本人でも医師でもさまざまです。診断基準に幅があり、はっきりと診断をつけることは難しい症状です。
起立時の血圧などで診断
 日本小児心身医学会は2006年に「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」を発表しました。起立性調節障害を、(1)起立直後に強い血圧低下が起こる、(2)起立による血圧低下はないが心拍が増加する、(3)血圧低下により意識低下や消失を起こす、(4)起立3~10分後に血圧が低下する、の4つに分類。起立時の血圧や起立後の血圧回復時間測定などの起立試験を行い、その結果と日常生活の症状などから診断します。
 また、(1)学校を休むと症状が軽くなる、(2)身体症状が再発・再燃を繰り返す、(3)気になることを言われると症状が悪化する、(4)1日のうちでも身体症状の程度が変化する、(5)身体的訴えが2つ以上ある、(6)日によって身体症状が変わるといった症状がある場合は、心身症として起立性調節障害と診断しています。
薬は症状を緩和するもの、大切なのは向き合い方
 ガイドラインに沿って「起立性調節障害」と診断した場合、血圧を上げる薬を処方することがあります。薬によって血圧が維持できて、朝に起きられるようになり学校に行けるようになった、と改善することもあります。しかし薬は症状を緩和するものであり、自律神経系の働きが改善したわけではありません。その後も症状を繰り返したり、薬の効きが悪くなり、薬は増えて治療が長期化することもあります。この症状に隠された本当の問題に、本人も家族も気づいていないのかもしれません。
まずは受け入れ見守ること
 朝、調子が悪くても、なんとか登校できており、日常生活にそれほど支障がなければ治療の必要はありません。しかし、学校に行けないほど症状が強い場合は、治療が必要になります。しばしば、朝がつらいという子どものことよりも、学校に行けないことに困っている保護者の姿が見えます。
 保護者の方にお願いしたいのは、何よりも先に子どもの心に寄り添ってあげること。起きられない状態など子どものありのままを受け入れ、起きられないのであれば登校を遅らせるなど対応を考えればいいわけです。
 子どもが、「学校には行きたいけど起きられない」のであれば、薬で血圧を維持して学校に通うのはその子にとってよい方法だと思います。反対に「薬は飲みたくない」という場合は「駄々をこねてるんでしょ」と怒るのではなく、なぜ症状を改善したくないのか、学校に行きたくないのはなぜなのかという問題に向き合ってほしいと思います。この時、子どもから話を無理やり聞き出すのではなく、子どもが語ることを聞くようにしましょう。
 敏感なこともその子の個性です。子どもに寄り添って、これからどうするか、どうしたいのかを一緒に考えてみてほしいと思います。必要な場合には、小児科医や心理士への相談をお勧めします。
増田 宏さん
医学博士、小児科専門医、広島大学医学部臨床教授。医療法人あおぞら ますだ小児科 理事長。子どもと子どもを囲む家族が健康な毎日を過ごすための情報提供ステーションを目指して小児医療に取り組む。臨床心理士、児童心理カウンセラーによる、子育ての悩みや子ども病気の相談に対応している。
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