2019年4月16日(火)
【よくある相談シリーズ】うちの子、嘘をつくことがあって…。
◆今回のお題は、「子どもの嘘」です。 このコラムでは、主に小学生の子どもと親のコミュニケーションについて、心理学や言語学での考え方を紹介しつつ、また私自身8歳の娘がいる母親という立場から、みなさんと一緒に考えてみたいと思っています。
●突然ですが、問題です。
友だちから、好きじゃないプレゼントをもらった。 『うれしい!』と嘘をついたら、友だちは喜んでいた。ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘って、どう違うんだろう?
◆これ、『答えのない道徳の問題 どう解く?』からの出題です(注1)。 みなさんは、どのように答えますか。また、みなさんのお子さんは、どう答えるでしょうか。
●年齢に応じた嘘の変化は、子どもの心の成長の指標。
◆子どもの心の成長を研究する発達心理学の分野では、100年も前から子どもの嘘について研究が行われてきました(注2、 p.83)。これまでの研究の積み重ねから、子どもの嘘には年齢段階に応じた特徴があり、子どもの内面の成長に伴って「より洗練された」嘘がつけるようになる、ということがわかってきています(注2、3、4)。
[3歳頃]
最も早い段階での嘘は、「あなたがやったの?」と問い詰められた時に反射的に「ちがうもん!」と否認したり、してはいけないことしてしまった時にそれを隠したりするような嘘で、なんと3歳頃から見られると言われています。ただし、嘘をついたあと、話のつじつまを合わせることができず、すぐバレてしまいます。
[4~6歳頃]
自分以外の人が心の中で、「なにかを思っている【信念】」「なにかをしようとしている【意図】」「なにかを知っている・知らない【知識】」ということが理解できるようになると言います(このように、人の心の状態を想定してその人の行動を理解する枠組みのことを、専門用語では「心の理論」と呼びます(注5))。同時に、ある目標に向けて自分の注意や行動を抑制したり、過去の経験を思い起こしたり、記憶を上書きしたりする能力も高まります。それに伴い、事実とは異なることを相手に信じさせようとする「意図的な嘘」をつけるようになってきます。罰を避けるための嘘はもちろん、欲しいものを手に入れるためにわざと嘘をつく可能性も出てきます(注4、pp.34-6)。
[7~9歳頃]
他者の心の中を想像できるだけでなく、ある人の心の状態を別の人がどう理解しているのか、という入れ子構造がわかってくると言われています。例えば、自分が思っていることが、相手に知られているのかいないのか、判断できるようになります。つまり、自分の思いと違うことを言っても相手には本心がバレない、ということが見えてくるわけです。これは必ずしも悪いことではなく、これによって、上の「どう解く?」の例のような他人を気遣って本心を隠す「悪意のない嘘」がつけるようになるのです。
[10~11歳頃]
巧みに嘘をつくために必要なさまざまな能力(例えば、記憶力・計画性・言語能力・感情や行動のコントロール・他者の内面の推測・現実世界と非現実の区別など)は、大人とあまり変わらなくなります。また、友だちや自分を守るために嘘をつくことは必ずしも悪いことではない、とも考えるようになります。プライバシーを持ちたい欲求も出てきて、両親になんでもかんでも話すこともしなくなってくるでしょう。一方で、嘘がバレるという恐れ、嘘をつくことの罪悪感、嘘が発覚したらどう困ったことになるか、といったこともわかってきて、道徳的に判断する力もついてきます。
◆このように、年齢による子どもの嘘の変化は、その子の社会性の発達の指標にもなるのです(もちろん個人差はあります)。
[3歳頃]
最も早い段階での嘘は、「あなたがやったの?」と問い詰められた時に反射的に「ちがうもん!」と否認したり、してはいけないことしてしまった時にそれを隠したりするような嘘で、なんと3歳頃から見られると言われています。ただし、嘘をついたあと、話のつじつまを合わせることができず、すぐバレてしまいます。
[4~6歳頃]
自分以外の人が心の中で、「なにかを思っている【信念】」「なにかをしようとしている【意図】」「なにかを知っている・知らない【知識】」ということが理解できるようになると言います(このように、人の心の状態を想定してその人の行動を理解する枠組みのことを、専門用語では「心の理論」と呼びます(注5))。同時に、ある目標に向けて自分の注意や行動を抑制したり、過去の経験を思い起こしたり、記憶を上書きしたりする能力も高まります。それに伴い、事実とは異なることを相手に信じさせようとする「意図的な嘘」をつけるようになってきます。罰を避けるための嘘はもちろん、欲しいものを手に入れるためにわざと嘘をつく可能性も出てきます(注4、pp.34-6)。
[7~9歳頃]
他者の心の中を想像できるだけでなく、ある人の心の状態を別の人がどう理解しているのか、という入れ子構造がわかってくると言われています。例えば、自分が思っていることが、相手に知られているのかいないのか、判断できるようになります。つまり、自分の思いと違うことを言っても相手には本心がバレない、ということが見えてくるわけです。これは必ずしも悪いことではなく、これによって、上の「どう解く?」の例のような他人を気遣って本心を隠す「悪意のない嘘」がつけるようになるのです。
[10~11歳頃]
巧みに嘘をつくために必要なさまざまな能力(例えば、記憶力・計画性・言語能力・感情や行動のコントロール・他者の内面の推測・現実世界と非現実の区別など)は、大人とあまり変わらなくなります。また、友だちや自分を守るために嘘をつくことは必ずしも悪いことではない、とも考えるようになります。プライバシーを持ちたい欲求も出てきて、両親になんでもかんでも話すこともしなくなってくるでしょう。一方で、嘘がバレるという恐れ、嘘をつくことの罪悪感、嘘が発覚したらどう困ったことになるか、といったこともわかってきて、道徳的に判断する力もついてきます。
◆このように、年齢による子どもの嘘の変化は、その子の社会性の発達の指標にもなるのです(もちろん個人差はあります)。
●なぜ、子どもに「嘘はいけない」と教えるのでしょうか。
◆コミュニケーションの面から言うと、私たちが人の話を理解し、その人の発言意図を推理できるのは、その人が嘘(偽り)を言っていないと信じているからだ、とする考え方があります。(注6)相手が嘘を言っているかもしれないと疑わなくてはいけないなら、そもそも言葉による意思疎通が成り立たなくなるのです。
◆より現実的な答えとしては、とくに思春期以降に、子どもに嘘をつかれたり本心を隠されたりすると、親が親としての責任を果たすために、また子どもを守るために必要な情報が簡単には得られなくなる、ということがあるでしょう。子どもが考えていることがわからなくなり、いじめへの関与、飲酒や喫煙、性行為・性的虐待の危険性に気づきにくくなります。 そうでなくても、私たち親は、内容を問わず子どもに嘘をつかれた、いう事実そのものにショックを受けます。私たちの社会では、嘘をつくことは欺く対象の相手を軽んじている行為だと見なされているからです。
◆たとえ嘘をついた本人にそうしたつもりがなくても、です。子どもに嘘をつかれると、傷つけられた、裏切られた、挑発された、という気持ちになり、怒りが湧いてきます。それはとても自然な反応です。ただ、その怒りが直接子どもに向かうと、カッとなって怒鳴ったり、叩いたり、無理やり白状させようとしたり、疑心暗鬼になってあれこれ問いただしたり、という行動になって表れます。それでは、子どもはますます口を閉ざしてしまいます。
◆より現実的な答えとしては、とくに思春期以降に、子どもに嘘をつかれたり本心を隠されたりすると、親が親としての責任を果たすために、また子どもを守るために必要な情報が簡単には得られなくなる、ということがあるでしょう。子どもが考えていることがわからなくなり、いじめへの関与、飲酒や喫煙、性行為・性的虐待の危険性に気づきにくくなります。 そうでなくても、私たち親は、内容を問わず子どもに嘘をつかれた、いう事実そのものにショックを受けます。私たちの社会では、嘘をつくことは欺く対象の相手を軽んじている行為だと見なされているからです。
◆たとえ嘘をついた本人にそうしたつもりがなくても、です。子どもに嘘をつかれると、傷つけられた、裏切られた、挑発された、という気持ちになり、怒りが湧いてきます。それはとても自然な反応です。ただ、その怒りが直接子どもに向かうと、カッとなって怒鳴ったり、叩いたり、無理やり白状させようとしたり、疑心暗鬼になってあれこれ問いただしたり、という行動になって表れます。それでは、子どもはますます口を閉ざしてしまいます。
●子どもの嘘に、親はどう対応すればいいのでしょうか。
◆ショックを感じたり、怒りがこみ上げたりするのは当然ですが、それを子どもにぶつけてお説教するのはあまり効果的ではありません。 子どもには、その子なりの嘘をついた理由がありますから、それを穏やかに根気よく聞き出すことがまず必要です。
◆「どうして嘘なんかついたの?」という聞き方をすることは避けたほうが良いです。「どうして~したの?(~しなかったの?)」という表現は、日常会話では、理由を尋ねる言葉というより相手を非難する言葉として理解されるからです。
◆子ども自身も言葉で理由がうまく説明できるわけでもありません。親の方から「お父さん(お母さん)は、〇〇がどうして嘘をついたのか、知りたいんだ。こういう気持ちだったの?」と子どもの気持ちを想像して歩み寄ってみると、「そう」とか「ちがう」とか反応が返ってきて、それが話し始めるきっかけとなることもあります。
◆子どもが嘘をついてまで隠そうとしたことはそもそも、その子自身、悪いことだとわかっていることが多いはずですから、すぐには正直に言ってくれないかもしれません。ダンマリが続いて余計にイライラするようなら、「またあとで話そうか」「まずご飯食べようか」と、気持ちを一旦リセットする時間を作るのも一つの方法です。
◆ 子どもが気持ちを正直に言ってくれた時には「正直に言ってくれてありがとう」と伝えましょう。子どもにとっては、たとえ悪いことでも正直に言えば親は受け入れてくれる、という安堵感を持つことにつながります。そして「それも確かに悪いことだけど、それを隠して嘘をつく方がお父さん(お母さん)にとってはもっと嫌だよ、悲しいよ」というように、嘘をつくことが具体的に他の人にどう影響するかを示す方が、「嘘つきは泥棒の始まりだよ」というような抽象的なお説教より、子どもには納得しやすいでしょう。
◆嘘が発覚した時に限らず、このような親と子のコミュニケーションには、親が思う以上に時間がかかります。また、一度こういうことがあったからといって、すぐに子どもの態度や行動が改善されることはあまり期待できません。私自身、娘とのケンカが長引いたり、同じことが何度も繰り返されたりすることにウンザリすることもたびたびあります。ついカッとなってしまって、あとで落ち込むことも多いです。ただ、コミュニケーションの研究者として、人と人とのコミュニケーションはそうそうスムーズに行くものではない、とわかっている(諦めている?)ので、娘とケンカして落ち込んでは、「気長につきあうしかないか」と思い直す毎日です。
◆さて、冒頭の問題に対して、『どう解く?』の本には、詩人の谷川俊太郎さんをはじめ、小学生の子どもたちのさまざまな「解答」が掲載されています。また、Web上にも「みんなの解答」としていろいろな見解が寄せられています(注7)。この問いには「正解」はありません。もしかしたら、みなさんの答えとお子さんの答えは違うかもしれません。だからといって、親の考えが正しく、子どもの考えは間違っている、というものではありません。子どもの考えも尊重しつつ、親である自分はこう考える、というような話し合いを普段から何気なくやれる関係を、子どもとの間で作っていけるといいですよね。
◆「どうして嘘なんかついたの?」という聞き方をすることは避けたほうが良いです。「どうして~したの?(~しなかったの?)」という表現は、日常会話では、理由を尋ねる言葉というより相手を非難する言葉として理解されるからです。
◆子ども自身も言葉で理由がうまく説明できるわけでもありません。親の方から「お父さん(お母さん)は、〇〇がどうして嘘をついたのか、知りたいんだ。こういう気持ちだったの?」と子どもの気持ちを想像して歩み寄ってみると、「そう」とか「ちがう」とか反応が返ってきて、それが話し始めるきっかけとなることもあります。
◆子どもが嘘をついてまで隠そうとしたことはそもそも、その子自身、悪いことだとわかっていることが多いはずですから、すぐには正直に言ってくれないかもしれません。ダンマリが続いて余計にイライラするようなら、「またあとで話そうか」「まずご飯食べようか」と、気持ちを一旦リセットする時間を作るのも一つの方法です。
◆ 子どもが気持ちを正直に言ってくれた時には「正直に言ってくれてありがとう」と伝えましょう。子どもにとっては、たとえ悪いことでも正直に言えば親は受け入れてくれる、という安堵感を持つことにつながります。そして「それも確かに悪いことだけど、それを隠して嘘をつく方がお父さん(お母さん)にとってはもっと嫌だよ、悲しいよ」というように、嘘をつくことが具体的に他の人にどう影響するかを示す方が、「嘘つきは泥棒の始まりだよ」というような抽象的なお説教より、子どもには納得しやすいでしょう。
◆嘘が発覚した時に限らず、このような親と子のコミュニケーションには、親が思う以上に時間がかかります。また、一度こういうことがあったからといって、すぐに子どもの態度や行動が改善されることはあまり期待できません。私自身、娘とのケンカが長引いたり、同じことが何度も繰り返されたりすることにウンザリすることもたびたびあります。ついカッとなってしまって、あとで落ち込むことも多いです。ただ、コミュニケーションの研究者として、人と人とのコミュニケーションはそうそうスムーズに行くものではない、とわかっている(諦めている?)ので、娘とケンカして落ち込んでは、「気長につきあうしかないか」と思い直す毎日です。
◆さて、冒頭の問題に対して、『どう解く?』の本には、詩人の谷川俊太郎さんをはじめ、小学生の子どもたちのさまざまな「解答」が掲載されています。また、Web上にも「みんなの解答」としていろいろな見解が寄せられています(注7)。この問いには「正解」はありません。もしかしたら、みなさんの答えとお子さんの答えは違うかもしれません。だからといって、親の考えが正しく、子どもの考えは間違っている、というものではありません。子どもの考えも尊重しつつ、親である自分はこう考える、というような話し合いを普段から何気なくやれる関係を、子どもとの間で作っていけるといいですよね。
注1)ぶん:やまざきひろし,え:きむらよう・にさわだいらはるひと+小学生のみんな『答えのない道徳の問題 どう解く?』 ポプラ社
注2)林創(2013)「嘘の発達」 村井潤一郎(編著)『嘘の心理学』 ナカニシヤ出版,pp.83-93
注3)ポール・エクマン(著),菅靖彦(訳)『子どもはなぜ嘘をつくのか』 河出書房新社
注4)松井智子(2013)『子どものうそ,大人の皮肉?ことばのオモテとウラがわかるには』 岩波書店
注5)子安増生(2014)『心の理論 心を読む心の科学』岩波書店
注6)ポール・グライス(著)、清塚邦彦(訳)『論理と会話』 勁草書房
注7)https://www.poplar.co.jp/pr/doutoku/answer/answer.html?md=view_a&qid=2
- 鈴木佳奈
広島国際大学
心理学部心理学科 准教授
博士(学術) - 大学生を対象とするコミュニケーション教育(日本語の読み書き、アカデミックライティング、プレゼンテーション、ディベート)に携わっています。
専門分野は社会言語学、会話分析。日常会話を分析して、私たちがことばを使いながらどのようにお互いを理解し合ったり誤解したりしているのかを調べます。プライベートでも、8歳の娘とのコミュニケーションに笑ったり怒ったりしています。