子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】●うちの子、落ち着きがなくて…。

●落ち着きがないのは、なぜ?


“今これをやっていたかと思えば、次の瞬間にはもう別のことに手を出している”、“今ここにいたかと思えば、もうあそこに行っている” など、一つのことに集中して取り組むことができない、じっとしていられない子どもの様子を見ると、うちの子は「落ち着きがない」ということになります。親(保護者)からみると、遊びにしても勉強にしても、もう少しじっくりと丁寧にやってくれないものかと心配になることでしょう。でも、多くの子どもは、本来「落ち着きがない」ものです。

大人だって、落ち着いていない。


ところで、私たち大人は、いつも「落ち着いている」のでしょうか。そうでもありませんね。話をしている時も、仕事をしている時も、私たちの頭の中では、いろんな考えが次から次へと浮かんでは消え、決して一つの所にとどまっていることはありません。友達と話しているのに、頭の中ではまったく別のことを考えたり、窓の外に気を取られたりしていませんか。人間の思考は常に動き続けており、大人だって「落ち着きがない」のです。

子どもは、好奇心にあふれている。


子どもも同じように、いつも目や耳に次々と不思議なものが飛び込んできたり、あれこれと面白いことを思いついたりしています。子どもは、目についたもの、頭に浮かんだことに興味があると、ついその方向にすべてのエネルギーを注ぎ込んでしまいます。大人と違って子どもは、毎日が新鮮な経験の宝庫なので、一瞬一瞬の出来事にいちいち心を奪われてしまうのです。つまり、いつも好奇心にあふれているからこそ、「落ち着いている」ことができないのです。

“注意”が続かない。


心理学では、あることに集中するための心の働きを“注意”という言葉で説明します。注意とは、目の前にあるたくさんの情報から自分に必要なものを見つける心の仕組みです。例えば、待ち合わせ場所で人混みの中から友達を探す時に、目を凝らして見回していると、ある瞬間にぱっと友達の顔が目に飛び込んできますよね。その時、私たちは、注意のエネルギー(注意資源)をある一つの所に注入しているのです。


大人であれば、注意資源を一か所だけに集めるのではなく、いくつかに分けて使うことができます。自動車を運転しながら、同時にラジオを聞き、さらに助手席の人と話すこともできます。だから、少々ほかのこと(ラジオ)に気を取られても、すぐに元の活動(運転)に戻ることができるのです。ところが、子どもは注意資源をうまく配分するのが苦手なので、別のことに注意を向けてしまうと、もう前のことは置き去りになってしまいます。だから、「落ち着きがない」のです。

●“やる気”を引き出して、落ち着きにつなげよう。

子どもの頭の中は好奇心でいっぱいで、あれもこれも一生懸命にやろうとするから「落ち着いている」暇がないのです。それでも少しはじっくりと取り組んでほしいものですね。そのために、大人はどのようなサポートをしてあげればよいのでしょうか。ここでは、まず子どものやりたいことを見つけて、“やる気”をうまく引き出すことで落ち着きにつなげる方法を考えてみましょう。

うちの子の関心は、どこに?


人間は、まったく関心のないことにまでエネルギーを費やそうとはしません。「落ち着きがない」子だって、でたらめにあれこれ手を出しているわけではなく、必ずそこには一貫した興味の方向性があるはずです。そこで、落ち着きなくやっていることをじっくりと観察してみると、うちの子が何に興味を示しているのかが見えてくるかも知れません。


ある子は、いつも鉛筆やクレヨンをもって何かを描いている。ある子は、動物に関係することに手を出している。またある子は、友達とのおしゃべりに力を入れている、などなど。さて、うちの子はどうでしょうか。本人が気づかないうちに興味をもっていることを発見してあげるのが、親の役割だと思います。それが見つかったら、今度はじっくりと取り組めるようサポートしてあげましょう。

自分で決めたことは、裏切れない。


うちの子は、どうも音楽に興味がありそうだと気づいたとしましょう。そうするとつい、「〇〇ちゃんは音楽が得意そうだから、ピアノを習いに行ってみる?」などと言ってしまいがちです。これでうまく乗ってくれて一生懸命に取り組んでくれればよいのですが、途中ですぐに投げ出してしまうことも多いことでしょう。人(親)から勧められたり、指示されて始めたことは、長続きしないものです。なぜなら、ちょっとうまくいかなかったりすると、その責任が勧めた人(親)のせいになってしまうからです。「お母さんがやれって言ったから…」ということになるのです。


それに対して、子どもが自分で決めた場合は、状況が異なります。自分がやると決めて始めたことを途中で簡単に放棄してしまうのは、子どもにとってもプライドが許しません。だから、自分のプライドを傷つけないために頑張ることができるのです。そこで、子どもが自分から「やりたい」と言うように、うまくガイドできたらしめたものです。これが難しければ、選択肢(「ピアノやってみたい? それともバイオリンがいい?」)を投げかけて自分で選ばせるのも一つの方法かも知れません。いずれにしても、“自己決定”には力があります。


"自己決定”をうまく使う。


“自己決定”の活用として、こんなことも考えられます。ゲームに熱中して勉強しようとしない子に「もう、いい加減にやめて宿題しなさい」とか、「ゲームは8時までよ」と言ってみても効果はありませんね。そんな時に「ゲームは何時までにする?」と尋ねてみて、子どもが「うーん、8時まで」と自分で決めてくれたら大成功です。8時になった頃に「今何時?」と聞くだけで、子どもは黙って勉強部屋に行ってくれる、かも。

“やればできる”という自信をつける。


子どもが何かに取り組み始めたら、今度はしっかりと“ほめる”ことで応援してあげましょう。どんなに小さくても、少しでもうまくできた、少しでも進歩したところをちゃんと見つけて“ほめる”ことが、意欲を高めるために最も有効な方法です。ほめられることが成功経験となり、成功経験が積み重なることで、“やればできる”という自信につながっていきます。この“やればできる”という自信がさらに強まってしっかりとした信念(これを、「自己効力感」といいます)になれば、少々つまずいても、失敗しても耐えることができる強い“やる気”につながることがわかっています。

『がんばりプラス』でしっかりほめる。


でも、ただ“ほめればよい”というわけではありません。「すごいね」「やったね」という言葉だけでは、うまくできたという事実は伝わりますが、“やればできる”という「自己効力感」を高めることにはつながりません。大切なことは、“がんばり”をほめることです。「努力したから、うまくできたのだ」という認識を子どもがもつことができれば、「次もがんばれば、うまくいくかも知れない」という期待がふくらみます。そこで、「すごいね」+「がんばったからね」とか、「やったね」+「よくがまんして続けたね」のように努力を評価する『がんばりプラス』のほめ言葉をたくさんプレゼントしてあげましょう。


一方、努力ではなく“能力”をほめてしまうと、かえってマイナスになることがあります。例えば、「よくできたね、頭いいね」や「きれいにできたね、いいセンスしてるね。」のように自分の能力をほめられた子は、“次に失敗してしまうと、今度は逆に能力を低く評価されてしまうのではないか”と不安になります。そして、難しいことにはチャレンジしないで、失敗しそうにない簡単なものばかりに手を出すようになるという研究結果があります。つい、「かしこいね」と子どもの能力をほめたくなるところですが、『かしこいプラス』のほめ言葉は子どもに負担をかけてしまう場合が多いのです。

●「自己決定→成功体験→がんばりプラス」のサイクルで。


やることを子どもが自分で決めて(自己決定)、できたときには(成功体験)、努力をほめる(がんばりプラス)。このサイクルがうまく働けば、子どもたちは意欲をもって一つのことを続けることができ、その結果として落ち着いて物事に取り組むようになることが期待できます。

実は筆者の大学では、小学生の学習支援活動の中で「自己決定→成功体験→がんばりプラス」サイクルを活用しながら、子どもたちの学びの意欲を高める実践を行っています。「学習カウンセリング」というこの活動は、算数の学習につまずいている小学生を学生が一対一で担当して支援します。学生は担当する子どもに合わせた問題プリントをたくさん作っておき、学習場面では子ども自身が好きな問題を選んでから解いて、子どもが解き方を説明した後で答え合わせをします。支援の基本方針は、“とにかく、よくほめる”ことです。子どもが自力で正解できそうな問題をできるだけ多く準備しておいて、正解ならもちろん“ほめる”、間違いを直せたら“ほめる”、間違いに気づけたら“ほめる”、間違ってもがんばったら“ほめる”、とにかく努力を“ほめる”。すると、わずか3か月のセッションで、ほとんどすべての子どもがあれだけ嫌いだった算数を好きになってくれるのです。保護者からは、宿題を自分からするようになった、算数の成績が少し上がった、学校で手をあげるようになった、といった嬉しい報告もいただきます。

うちの子を“ほめる”のは、なかなか難しいものです。つい、いらいらして叱ってしまうことの方が多いでしょう。しかし、よく考えてみてください。子どもを本気で“ほめる”ことができるのは、親だけではないでしょうか。うちの子をしっかり見つめ、ほめポイントをたくさん発見して、『がんばりプラス』でほめてあげる。これを続ければ、きっと落ち着きのきざしが見えてくるはずです。

桐木建始 広島女学院大学
人間生活学部児童教育学科 教授
専門分野は、認知心理学、教育心理学
人間が記憶したり、ことばを理解したりする背景にどのような心の仕組みがひそんでいるのかを明らかにする認知心理学に関わりながら、子どもがいきいきと学ぶことができる効果的な支援方法をさがす活動を学生と一緒に行っています。
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