子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】「プログラミング教育」って何?


今回のお題は「プログラミングをなぜ学ぶの? 子どもたちが身につけるべきものとは?」です。このコラムでは、主に小学生の子どもと親とのコミュニケーションに関わる問題について、言語学・心理学の研究者としての立場から、また私自身8歳の娘がいる母親として、みなさんと一緒に考えてみたいと思っています。

 
●どうして「プログラミング」を学ぶの?

習い事としての「プログラミング教室」が話題になっている、と聞きます。例えばイー・ラーニング研究所の調査(注1)では、回答者である親に、子どもに「2019年、何の習い事をさせたいですか(させる予定ですか)」と尋ねると、「英会話スクール」と「プログラミング教室」が同数で1位という結果になりました。「なぜその習い事をさせたいのですか(させる予定なのですか)」という問いに対しては、「将来のためになると思ったから」という回答が最も多く、次いで「2020年の教育改正に向けて」が続いています。「プログラミング教室」への注目度の高まりには、2020年度から小学校で導入される「プログラミング教育」に備えさせようという親の心理が強く反映しているようです。

そもそもなぜ「プログラミング教育」が小学校で行われるようになるのでしょうか。実は小学校での「プログラミング教育」は、プログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得したりすること自体をねらいとしているものではない、と言います。

文部科学省「小学校プログラミング教育の手引(第二版)」(注2)では、小学校における「プログラミング教育」の大きなねらいについて、次のように記されています(p.11)。
 

コンピュータに意図した処理を行うよう指示する体験を通して、課題を解決するために、どのような命令をどのような順序で行えばよいのかを考えること、また、うまくいかなかった時にはどこが間違っていたのかを考え、修正・改善して、その結果を確かめることが、「プログラミング的思考」です。さらに、コンピュータがプログラムで動いていること、プログラムは人が作成していること、コンピュータには得意なこととできないことがあること、コンピュータが日常生活の様々な場面で使われており、生活を便利にしていることへの気づきから、今後の生活でコンピュータ等を活用する基盤を作っていくようです。たとえば、プログラムで正多角形を描いてみる(算数)、条件ブロック(地方名、地形的特徴、特産物など)を組み合わせて都道府県を見分けるプログラムを使って日本の地理を学ぶ(社会科)、自動炊飯器に組み込まれるプログラムを考えながら炊飯について理解を深める(家庭科)など、様々な教科等の学習内容と連動した活動が推奨されています。

上記の「プログラミング教育」の導入も含めて、2020年度から小学校の新しい学習指導要領が全面実施されます(注3)。「学習指導要領」は、全国どこの学校でも同じ水準の教育が受けられるよう文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準です。学校で使われる教科書や時間割は、これをもとに作られています。
 

●キーワードは「主体的」「対話的」「深い学び」

今の学習指導要領は、子どもたちに「生きる力」をはぐくむ、という理念のもと、基礎的な知識や技能を身に付けさせるだけでなく、それを実生活の場面で応用する力を育てようとしています。子どもの教科書を見て、ある単元で学んだことを他の単元や教科と結びつけて考えさせるような発展問題・応用問題がたくさん用意されていることに驚いた親御さんも多いのではないでしょうか。

2020年度の改訂では、さらに「主体的・対話的で深い学び」というキーワードが追加されます。子ども自身が課題を発見し、その解決に興味を持って積極的に取り組むとともに、そこで学んだことをふりかえって次の学習に活かす(主体的な学び)。教師が一方的に正解を教えるのではなく、子ども同士で協働したりいろんな立場の人の意見を聞いたりして、自分の考えを広げたり深めたりする(対話的な学び)。様々な教科で学ぶ知識や物事の見方・考え方を働かせて、問題の解決策を考えたり新たなものを創造したりする(深い学び)。そのための学びの方法として「アクティブ・ラーニング」や「プロジェクト型学習(project-based learning)」がこれまで以上に授業に取り入れられることになります。

 

●「わからない」を受け入れ、一緒に考える
 


このような学習指導要領の改訂を受けて、学校の先生がたも、研修会や勉強会に頻繁に参加したりして、よりよい授業を行うべく努力されています。しかし、上のような学びは学校の授業だけで完結するものではありません。家庭での親子のコミュニケーションを通して、親が子どもの学びを下支えすることも重要です。

まずは、知らないことについて子どもが素直に「わからない」と言うのを受け入れることから始めましょう。子どもが発する「これ、わかんない」「~ってなに?」「どうして?」といった疑問は学びの入り口です。大人はとかく「こんなこともわかんないの」「そういうものなの」と疑問を持つこと自体を否定したり、「これは~だよ」とすぐに答えを言ったりしがちです。これが正解だ、というものを示されてしまうと、子どもはそこで考えるのをやめてしまいます。せっかく子どもが入り口を開いてくれたのですから、すぐに出口に着こうとするのではなく、時間がかかっても遠回りでも一緒に考えたり調べたりしてみます。時には「お父さん(お母さん)はこう思うけど、あなたはどう思う?」「どこからそう思う?」などの質問を投げかけて、さらに考えることを促すのもよいでしょう。このように一人ひとりの子どもに寄り添って、その子に合わせた学びを支えるには、実は大人のほうにこそ質問力や幅広い知識が必要だ、と気づかされるかもしれません。

私たちを取り巻く社会は目まぐるしく変化し、生活を便利に豊かにする科学技術はどんどん新しくなっていきます。そのような環境で生きる私たちは、学校を卒業して社会に出てからも、生涯ずっと学び続けることになるのです。安易に正解を求めず自分なりに調べたり考えたりしてみること、そしてそのように試行錯誤することを面倒くさがらないことが、生涯学び続ける土台になります。小学校でのプログラミング教育も、子どもたちが生きていくための学びの土台を固める仕掛けの一つなのです。


注1)子どものいる20代~50代の親(男女)計189人を対象とし、2018年12月に行われた「年末年始の子どもの習い事アンケート」です。ただし、子どもの年齢については明記されていません。
イー・ラーニング研究所(2019)「子どもがいる親世代に聞いた『年末年始の習い事アンケート』2018年に話題になった子どもの習い事、2019年にさせたい習い事の第1位は、どちらも『プログラミング教室』に」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000013831.html
注2)文部科学省(2018)「小学校プログラミング教育の手引(第二版)」
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/
11/06/1403162_02_1.pdf

注3)文部科学省「学習指導要領『生きる力』」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm
鈴木佳奈
広島国際大学 
心理学部心理学科 准教授
博士(学術)

大学生を対象とするコミュニケーション教育(日本語の読み書き、アカデミックライティング、プレゼンテーション、ディベート)に携わっています。
専門分野は社会言語学、会話分析。日常会話を分析して、私たちがことばを使いながらどのようにお互いを理解し合ったり誤解したりしているのかを調べます。プライベートでも、8歳の娘とのコミュニケーションに笑ったり怒ったりしています。
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