2019年11月13日(水)
【よくある相談シリーズ】うちの子、性的なことに興味を持ち始めました…。
子どもが性的なことに興味を示し始めた時、正直、大人としてはちょっと気まずいですよね。できれば避けて通りたいと思いつつ、メディアに氾濫する誤った情報からおかしな知識を得てしまうのも心配…という悩みを抱いている保護者の方も少なからずいるでしょう。また、子どもの疑問に向き合おうとは思っているけれど、何をどう話せばいいのか分からず、悩んでいる方もいるでしょう。最近では、AIアシスタントにキスやセックスについての質問をするようになった子どもに保護者が戸惑うといったケースもあるようです。性的なことに関して興味・関心の強い子もいれば弱い子もいますが、一定の年齢になれば、大なり小なり、そうしたことに関心をもつようになるでしょう。子どもたちにとっては、大人が思うよりずっと純粋で素朴な興味・関心なのです。できれば、うろたえることなく、適切に対応して、子どもたちが正しい知識を得て、自分の心身も他者の心身もともに大切にできる感覚を身につけ、いずれパートナーと適切な関係を築いていけるように導きたいものです。
とはいえ、実際には、どうしていいか分からず、変にうろたえて、つい子どもを叱ってしまった…という失敗談も耳にしますし、「いよいよ来たか!」と身構えて必死にうまい言葉を探したけれど、何といえばよいか分からず結局言葉につまってしまったとか、成長の一過程と頭では理解しつつも内心複雑な思いで、何となく気まずい空気になって、そのまま何事もなかったかのようにスルーしてしまった、という話も聞きます。昔に比べればオープンになってきたとはいえ、性的なことについて子どもに教えることや、性的な話題について子どもと会話することに少なからず戸惑いを覚えたり、抵抗を感じたりする大人も少なくはないでしょう。
しかし、「性」についての誤った知識や認識は、自他の心身を傷つけ、不幸な結果を招いてしまう可能性もあります。とりわけ、インターネットなどのメディアを通じて常に膨大で雑多な情報にさらされている現代社会においては、誤った情報や有害な情報から完全に子どもたちを遠ざけることは難しく、ともすればそうした情報に無防備に触れてしまい、子どもたちの中に誤った認識が築かれやすい状況にあると言えるでしょう。したがって、できれば子どもたちがそうした情報に触れる以前に、正確な情報や正しい知識を伝え、自分や他者の心身を大切にできる感覚を育て、いずれ適切な時期に他者と健全な性的関係を結ぶことができる下地を子どもたちの中に築いておくことは、とても重要なことであると考えられます。
では、そのためには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
●まずは、子どもの素朴な疑問を受け止め、
タブー視しないこと
タブー視しないこと
個人差はありますが、男女ともに、おおむね小学校の高学年頃から次第に性的なことに対する興味・関心をもち始めたり、クラスメイトとの会話の中でそうした話題が出て、素朴な疑問をもったりするようになります。大人たちは、性的なことに関する子どもの興味・感心に対して、まずは、できるだけうろたえず、また、はぐらかしたりもすることなく、落ちついてありのままに受け止めることが大切です。ふとした会話の際に子どもが話題にのぼらせたり、何か具体的に子どもから尋ねられたりしたときも、気の利いた言葉を返さなくてはと身構えたり焦ったりする必要はありません。ただ子どもの言葉を受け止め、その素朴な疑問に耳を傾けてみましょう。どうしても言葉につまってしまって困るという場合には、「○○ちゃんは、×××について知りたいんだね」などと、優しく子どもの言葉を繰り返す形で応じてみるのもよいかもしれません。それによって、少なくとも、子どもの思いや疑問を否定したり避けたりせず、優しく受け止めて、きちんと向き合おうとしているという姿勢は示すことができるでしょう。そして、可能なら、そのまま会話の流れの中で自然に、子どもが疑問に思っていることや、そうしたことに関心をもった経緯などを具体的に聞いてみることができると、子どもの質問の真意や現在の知識の程度等についてより正確に知ることができるでしょう。
このとき、心に留めておく必要があることとして、性的なことへの関心の強さや性に関することをどの程度オープンに語れるかには個人差があり、それは親子であっても必ずしも一致しているわけではない、ということです。自分の経験から想像する以上の強い関心を子どもが示すこともあるでしょうし、自分よりもずっと早い時期に興味を示すこともあるでしょう。また、かつての自分は、性的なことについて他者にたずねることや、親子でそうした話題について語ることにとても抵抗があったのに、子どもはそうではないようだ、という場合もあるでしょう。保護者の側に性的なことに関するタブー意識が強い場合や、子どもの頃から性的なことをタブー視する養育を受けてきたような場合には、知らず知らずのうちに築かれたそうした感覚を、子どもに押しつけてしまうことがないよう、十分に気をつけておかなければなりません。また、時には、性的なことへの興味・関心について話す中で、子どもから、それが異性ではなく同性に対するものであることを打ち明けられたりほのめかされたりするというケースもあります。子どもと向き合う際には、自分の中の性に関する認識や感覚、性的な話題に関するオープンさや不快感の程度、LGBTへの理解度等を、改めて冷静に見つめ直しておくことも必要かもしれません。
子どもが性的なことについての興味・関心を示した際、最も避けたいのは、そのことを強く叱責したり、「いやらしい」とさげすむような態度をとったり、あるいは、ことさらにタブー視して隠そうとしたり、子どもが性に関する情報に触れようとすることを強く禁じたりすることです。たとえ、大人の側に、この年齢ではそうした情報に触れるのはまだ早すぎるのではと案じる気持ちや不安、わが子とそうした話題について話すことの気恥ずかしさなど、それなりの理由があったとしても、です。過度の叱責や禁止等は、子どもの中に、性は汚いものというイメージを植え付けてしまう可能性もあります。また、場合によっては、性に関する歪んだ認識を育ててしまったり、性的な逸脱行動につながるトラウマ体験となってしまったりするケースもあるので、非常に注意が必要です。また、大人からの叱責や禁止を受けた子どもが、大人に隠れて密かにメディア等から情報を得ようとすることで、結果的に、偏った情報源からの誤った情報・知識や有害な情報・知識を得る危険性を高めてしまうことにもなりかねません。大人が子どもの情報収集にきちんと寄り添い、信頼できる情報源から正確な情報を得ることのできる環境を整えることが、まずは何より大切なのです。
ただ、既に叱責してしまったとか、ダブー視して口にしないよう禁じてしまったという場合であっても、失敗してしまったと悲観する必要はありません。この間は突然だったからびっくりしてついきついことを言ってしまったと正直に自分の思いを伝えた上で、そのことを詫びて、成長を嬉しく思っていることを伝えて、改めて子どもと向き合っていけばよいでしょう。子育てにおいては、まずい対応をしてしまったかもしれないと感じた時に大事なことは、誠意をもってリカバリしようとすることであり、その姿勢を子どもに見せることではないでしょうか。子どもが一定の年齢に達していれば、保護者のそうした真摯な態度や思いは伝わるはずですし、子どもも理解してくれるはずです。
もっと直接的に、自慰行為やそれらしき行動を目撃してしまった時も、基本的には、その行為を行っていたこと自体を頭ごなしに責めることは避けなければなりません。そうした行為を行っていたことをきつく叱られたり叩かれたりした子どもは、ひどく傷つき、罪の意識に苦しめられることにもなりかねないからです。行為を行ったこと自体を責めるのではなく、そうした行為は他の人が見ると異様に感じたり、不快な感じを受けたりすることがあるので、一人の時に、家族にも誰にも見られないようにするのがマナーであると伝えられるとよいかもしれません。もし、もっと幼い小学校低学年くらいまでの子どもが、ストレスを感じたときや手持無沙汰なときに何気なく性器いじりをしているというような場合には、本人に性的な意図で自分の身体に触れている感覚はなく、あくまでも気持ちを落ち着ける指しゃぶりのような感覚だったりかゆみが原因であったりするので、大人もそれほど過敏になる必要はなく、ある程度ほうっておいて様子を見ていてもよいでしょう。あまりに頻繁であるとか、人前でもしてしまって困るような場合で、とくにかゆみなどが原因ではないようであれば、さわっているところを他の人がみると嫌な気持ちになることを伝え、人前で触らないようにと促してみてもよいかもしれません。また、身体の中でも特に大事なところだから、バイ菌が入るとよくないのであまりさわらないほうがよいと伝えてみるのもひとつの方法かもしれません。
●困ったときには、そのために書かれた絵本や漫画等も
活用する
次に、子どもと向き合う際、家族の形態によっては、暗黙のうちに同性の親がかかわるという流れになっているというケースが多いようですが、近年ではひとり親家庭も増加しており、また、そうでなくとも、必ずしも常に同性の親が対応できるというわけではないでしょう。異性の子どもの興味・感心を理解し、それに向き合わなければならない場合には、同性の子ども以上の困難や抵抗を感じることもあるかもしれません。もちろん、同性の保護者や大人から伝える場合であっても、ひとりひとりの子どもの疑問や興味は様々ですし、何をどう伝えるべきか迷うことも多いでしょう。
そうしたことを踏まえて、子どもたちに信頼できる情報源からの正確な情報を伝えるためにも、困ったときには、そのために作られた絵本や漫画を含む書籍を活用するとよいでしょう。小学校高学年頃からであれば、男女それぞれに向けて書かれた漫画スタイルの書籍も出版されていますので、そうしたものの中から1冊選び、本人に読むことを勧めてもよいですし、もし可能なら、親子で順に読んで、内容について自由に話をしてみてもよいでしょう。絵本のスタイルをとったものであれば、親子で一緒に開いたり、語り合ったりする際の気恥ずかしさも少し和らぐかもしれません。また、これらの書籍は、子どもと話す前に事前に大人が知識を得ておくためにも十分役立つと思います。参考文献として、いくつかをあげておきますので、参考にしてみてください。
いずれにしても、性的なことに関する知識を子どもに伝えていく際に大事なことは、子どもたちが単なる肉体的快楽やそれを得る方法のみに目を向けてしまうことがないよう、性的な行為は生命誕生の神秘につながる大切な営みであることや、パートナー間の心のつながりを生む大切なコミュニケーションでもあること等を伝えることです。このことは、いずれ、適切な時期にしかるべきパートナーを得て、パートナーと健全な性的関係を築いていくことができるよう、子どもたちが性に関するポジティブなイメージを心の中に築いていくためにも大事なことです。その上で、知識の足りない安易な行為による様々なリスクについても、年齢に応じてしっかりと伝え、まずは自分自身の心身を守れるようにすること、そして、同時に、自分と同じように他者(パートナー等)の心身をも大切にすることができる感覚を養っておく必要があります。もちろん、性的関係においても重要な、他者を尊重する態度やその素地は、一朝一夕に築かれるものではなく、日常の様々な経験を通して育まれていくものですから、家庭の中だけでなく、子どもたちとかかわる我々すべての大人が、子どもたちに少しでもよい影響を与えられるよう、日頃から自分自身の言動や子どもとのかかわり方に気を配っておきたいものです。
今まさに、子どもが性的なことへの興味・関心をもちはじめているのであれば、それをきっかけに、生殖や性に関する正しい知識や情報を伝え、自分の身体を守るための術や心構えを教えるチャンスでもあると思います。はぐらかすことなく、子どもの疑問や悩みを受け止め、真摯に寄り添いつつ、リスクを回避するための術や自他ともに大切にできる性知識が身につけられるような学びや対話に、是非親子でトライしてみてください。
●可能なら、早い時期から自然に知識が得られる環境を
工夫する
最後に、性的なことへの興味・関心が低い子どもや、そうした興味・関心をもつにはまだ幼い子どものいるご家庭でも、この問題は決して無関係ではありません。全国の中学生から大学生までを対象として2017年に行われた「青少年の性行動全国調査」によれば、近年、青少年の性行動の不活発化や、性的なことへの関心の低下傾向があることなどが示されていますが、そうした性的関心の低い人々の中にも、実際には性行動を経験している者が一定割合存在しており、リスクとは無縁でないことが指摘されています。そうした人たちは、関心がないことで自分からは情報を求めないため、性に関する情報にあまり接することなく過ごし、そのため、リスク回避の知識も十分にもたないまま性行動を経験してしまっている恐れもあるというのです。こうしたことからも、子どもの興味・関心の程度によらず、子どもの発達に応じて、適切な時期に、自然に適切な知識が得られる環境を大人や社会が整えていくことが大事だといえるでしょう。
家庭の中でできることとしては、早くから家の本棚に、先にあげたような絵本を1冊置いておき、子どもが男女の身体的差異に気づくようになり、自分の身体に興味を持ち始める4~5歳の頃から、一緒に開いて眺めてみたり、読み聞かせをしたりして、正しい知識が自然に身につく環境を用意しておくのもよいかもしれません。これは、インターネットなどから誤った情報や有害な情報を得る前に、正しい知識を子どもに伝えていくためにも、非常に有効な方法と言えるでしょう。
今はまだ子どもが性的なことへの興味・関心を示していないというご家庭でも、いざというときに慌てることがないよう、子どもたちが抵抗なく、早いうちから自然な形で少しずつ、正しい知識を吸収していけるような環境を用意したり、大人自身が、性に関する認識や性的な話題への感覚、LGBTの問題なども含む人の生き方や性・生殖等に関する自身の考え方を改めて見つめ直したりするきっかけになればと願っています。
参考文献
・『「若者の性」白書-第8回 青少年の性行動全国調査報告-』 日本性教育協会 小学館 2019年
・『子どもと性必読25問 タジタジ親にならないために』 村瀬幸浩著 子どもの未来社 2017年
・『メグさんの女の子・男の子からだBOOK』 メグ・ヒックリング著、キム・ラ・フェイブ絵、三輪妙子訳
築地書館 2003年
・『マンガでわかるオトコの子の「性」 思春期男子へ13のレッスン』 村瀬幸浩監修、染矢明日香著、みすこそ マンガ 合同出版 2015年
・『13歳までに伝えたい女の子の心と体のこと 大切なお嬢さんのために』 やまがたてるえ著 かんき出版 2010年
- 加藤 美帆
- 広島女学院大学 人間生活学部
児童教育学科 准教授
博士(教育学)修士(心理学)
専門分野:発達心理学、教育心理学