2020年4月16日(木)
【よくある相談シリーズ】うちの子、忘れ物が多くて心配です…。
今回のお題は、忘れ物について。と、言っている私も、よく忘れ物をする方でした。そして、それを引き継いで、うちの中1の次男もよく忘れ物をしています。仕事で出会うお母さんたちから、「毎日ガミガミ口うるさく言っても、全く改善しません。どうやったら治るのでしょうか?」と、ご相談を受けることも。そこで今回は、子どもの忘れ物を少なくするには、どうすれば良いのか、どんな声かけをしていくのが良いのか、一緒に考えていきましょう。
●忘れ物は、そもそも治るものなのでしょうか?
忘れ物を全くしたことのない人は、いないかもしれないですね。忘れ物は『治す』ものではなく、『なるべくしなくて済むように気をつける(工夫する)』ものだと考えてみましょう。私たち大人も同様。仕事で必要なUSBや資料は前日に準備をして、当日の朝も確認したり、手帳に必要な物を書き出してチェックしてみたり、付箋にメモをしたり、冷蔵庫に貼ったり、皆さんも色々工夫をされていませんか?
私たちが子どもたちに関わる時のポイントは、忘れ物をしたことを叱ったり、あげつらったりすることではなく、忘れ物をなるべく減らす工夫を子どもたちが自分で考えられる知恵や力を付けてあげることです。なので、一足飛びに『治る』のではなく、『徐々に減っていく』とイメージしましょう。それだけでも怒る回数が減って気持ちも楽に、子どもの忘れ物と上手に付き合っていけるようになりますよ。
まずは皆さん、考えてみましょう。自分自身が忘れ物をしないように、生活の中でどんな工夫をしていますか? もしくは小学生・中学生の時にどんな工夫していましたか? 「ママも忘れ物が多かったんだけど、こんな風に工夫をしていたよ」とお子さんに教えてあげてください。ここで重要なのは、この伝えた工夫点は、ただ子どもに『ふりかけ』るだけ。『押し付け』てはいけません。子どもに言いながら「やらせよう」という気持ちが強くなっていたら、それは『ふりかけ』ではなく『押し付け』になっているかもしれないので気を付けて。
●忘れ物をしない工夫を『ふりかけ』よう!
ではここで、工夫を『押し付け』るのと、『ふりかけ』た場合の違いをA君とB君を例に考えてみましょう。
この春から中学生のA君は、小学生の頃、全く忘れ物をしない子でした。中学生になった途端に忘れ物が多く、担任の先生から注意されることが増え、自信を無くして元気がありません。小学生の頃、A君は、毎日お母さんが次の日の持っていくものをチェックしてくれていました。入っていない物があったらお母さんは「また○○が入っていないよ。持って行きなさい」とA君に準備をさせていました。中学生になってからこのままではいけないと思ったお母さんは、A君に「もう中学生なんだから、自分で全部しなさい」と、全く手伝ってくれなくなりました。A君のお母さんも、忘れ物が多いA君を心配して、一生懸命サポートしていました。でもA君の忘れ物は減りません。どうしてでしょうか?
B君は、小学生の頃から忘れ物が多く、授業で困ることが度々ありました。B君は困ったことがある度に帰ってお母さんにそのことを話しました。B君のお母さんは「お母さんは鍵盤ハーモニカをランドセルの横に置いて見えるようにしていたなぁ」「ランドセルに持ち物を入れる度に、連絡帳に印をつけていたよ」「お母さんも特売日はカレンダーに○を付けて特売日って書いているでしょ」など、お母さんの工夫をその都度伝えていきました。でもB君はすぐにはできるようになりません。それでもたまに忘れ物をしなかった日があれば、お母さんはそれを取り上げて「忘れ物をしなかったの、すごいじゃん。どんな工夫をしたの?」と話をしました。B君は自分で忘れ物防止の工夫を考えるようになっていきました。それでも全部忘れ物はなくなる訳ではありません。その度にお母さんは前回工夫してできたことを一緒に思い出していきました。そして少しずつ忘れ物の頻度が減っていることをB君に伝えていきました。
A君のママもB君のママも子どものことをとても大切に想っています。中学生になったA君は「僕はお母さんに手伝ってもらわないと何もできない」と感じています。中学生になったB君は「僕は困ったことがあっても、アドバイスしてくれる人に聞いて、自分で何とかできるぞ」と感じています。『押し付け』ればすぐに忘れ物を減らすことができます。『ふりかけ』れば、すぐに忘れ物は減りません。しかし、将来自分で忘れ物を減らす工夫ができる力を育めます。子育ての結果はすぐに見えません。私たち親は「これで合っているのかなぁ」と不安になることも多々あります。その都度立ち止まり、考えてみましょう。子どもにどんな力を付けてやりたいのか、どんな子どもに育てたいのかを。
●忘れ物対応のポイント
❶忘れ物について、話し合おう。
話し合う時のポイントは、親と子の利害を一致させること。「あなたもみんなの前で先生から怒られるのはバツが悪いんじゃない? お母さんも先生から度々電話があるのはちょっと気分が良くないなぁ。じゃあ一緒にどうやったら忘れ物を減らせられるか考えてみない?」と、声をかけてみてください。
❷具体的な手立てを教えてあげよう。
皆さんがこれまで工夫してきたことを伝え、どれをやってみるかは子どもと一緒に考えましょう
\手順で一番大切なのはここ!/
❸やってみようと思った時点で褒める(肯定する)。
できている時にも褒める(肯定する)。
「じゃあ僕、連絡帳持ってくるよ」と言っただけで、「おっ、早速ママの言ったのを試してみようと思ったのね。すごい!」。準備ができた時にも「これでバッチリ準備できたね」。その日夕方帰った時にも「連絡帳作戦で今日は忘れ物がなかったね」。夕飯の時にパパにも「今日は連絡帳チェック作戦で、バッチリ準備できたんだよ」と一緒に喜んでみたり。肯定的な注目(褒める)には、色々なバリエーションがあります。肯定的な注目をすることで子どものモチベーションをアップさせ、「やってみたい!」「やってみよう!」という気持ちを育てていきます。
●肯定的注目で、褒めて伸ばそう!
先ほど登場したB君は、忘れ物を通して、「やってみたい!」気持ちから「自分で考えてやってみよう!」という気持ち、自己肯定感を育んでもらっていたんですね。そして、この肯定的注目(褒める)は、『忘れ物をしない工夫』という習慣をしっかりB君に定着させていくことにも繋がっていきます。ただ、この定着にどのくらい時間がかかるのかは、子ども一人ひとりでペースが違います。ゆっくり定着していく子もいれば、すぐにできるようになる子もいたり…。うちの子はどのくらいで定着するかなぁと、水(工夫を『ふりかける』)と栄養(肯定的注目・褒める)を与えて、成長するのをのんびり見守っていきましょう。徐々に伸びていく様子を楽しむこともお忘れなく。
さてみなさん、もしかして今ここまで読んで「あっ、うちはA君のやり方だった(汗)」と心配になった人もいるかもしれませんね。でも、子育てに手遅れはありません。子どもたちは弱いようで強い! 今は、水や栄養のやり方が合っていなくて元気をなくしていたとしても、枯れることはありません。その子その子のペースに合わせて、水と栄養を与えていけば、しっかりぐんぐん元気に伸びていってくれます。
まずは「(お母さんが手伝っていたことは言わず)これまでA君は忘れ物がなくてすごかったね。これからちょっとずつお母さんがやっていたことが自分でできるようになるように練習していこう」と、肯定しながら提案してあげて下さい。ここで重要なのは、すぐに(急に)手を離さないこと。まずは一緒にやってみることから始めましょう。徐々に自分だけで考える時間を増やしていきます。その時に忘れてはいけないのが肯定する(褒める)。「最近はママがずっと見ていなくても自分だけでもしっかり連絡帳チェックできるようになってきたね。すごいね」と伝えます。たとえ忘れる日やできていない日があっても、できた時にしっかり伝えてあげましょう。
私たちが社会で『押し付け』られ、守らなければいけないものには社会のルールがあります。『押し付け』られた物にも上手く付き合っていくやり方・工夫も子どもたちに付けてあげたい力ですね。そのお話はまたの機会に。
- 土居和子
広島県教育委員会 スクールカウンセラー
広島県乳幼児教育支援センター
保育ソーシャルワーカー
東広島市教育委員会
スクールソーシャルワーカー
広島文化学園短期大学保育学科 非常勤講師
三原看護専門学校 非常勤講師
その他
ペアレントトレーニング、NPプログラム、
BPプログラムなどの保護者向け子育て講座
ティーチャーズトレーニング、
事例検討会などの保育士や幼稚園教諭向けの研修会
小中学校教員向けの研修会など