子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】入学・進級してひとつ大人になった子どもと どう接したらいいの?


新年度が始まって4ヶ月経ちましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響による休校や外出自粛要請で、学校生活がままならなかった方も多いと思います。本来であれば、慌しくも緊張感のあった生活が少し落ち着いてきた頃。ここで改めて、小学校低学年・中学年・高学年それぞれの時期に、子どもたちにどんな身体的・心理的変化が起こるのか、それに対して親はどのような心構えを持つ必要があるのか、まとめてみます(注1)。

 

●低学年(小学1・2年生)
 

<子どもたちの特徴>
身体的には、幼児期と比べ、運動能力が向上して、走る・ボールを投げるなどの動作がよりなめらかにできるようになります。手指などの微細運動も発達して、文字を書くなど細かい作業が丁寧にできるようになってきます。

認知能力の面では、それまでの話し言葉中心だった生活に、書き言葉が入ってきます。耳から入る言葉だけでなく、書かれた言葉を理解して考えることが可能になります。それによって、ある程度の論理的な思考もできるようになってきます。

社会生活の面では、クラスの友達とうまくやっていくことと、集団の中で動けるようになることが求められるようになります。保育園や幼稚園では、顔見知りで比較的少人数の友達と、遊びを通してゆっくり時間をかけて関わることができました。しかし、小学校では遊びの時間は少ししかなく、勉強が主体になる中で、多くの友達とうまく関係を作っていくことになります。しかも、機械的に区切られた時間に合わせて、活動を始め、終了しなければなりません。先生も、今までのように、自分だけに語りかけてくれることは少なくなります。先生がみんなに向けて話すことを、自分のこととして受け止め、その指示に従って動くことが期待されます。

先生の指示に従って、みんなと足並みを揃え、時間割どおりに動くことに代表されるように、子どもたちにとって「やらなければいけないこと」「守らなくてはならないこと」が格段に増えます。自分でも「やらないといけない」という自覚を持ち始める一方で、集中力が続かなかったり、他のことに注意がそれたり、もっと楽しそうなことを優先したりして、「できない」「やりたくない」という思いとの葛藤もたくさん経験します。


<親の心構え>
ある調査によると、同じ子どもの保護者に、卒園3ヶ月前と入学2ヶ月後の2回、子どもの発達や生活習慣について尋ねたところ、幼児期には「できる」と評価されていたことが、小学校入学以降では全体として少し評価が下がる傾向が見られたそうです(注2)。子どもが小学校に上がると、親は、子どもに対して要求水準が高くなり、子どもの行動への評価が厳しくなるのかもしれません。また、小学生になると実際に自分でできることが増えるために、親も安心して子どもに任せてしまう部分や、できているはずと思って関心を払わなくなることも多くなるようです。例えば、親による絵本の読み聞かせは、音読の宿題が出ることもあってか、小学校入学とともに頻度が大きく下がる家庭の比率が高いことが示されています(注3)。「子どもが小学校に入って、ちょっと楽になった」と感じる保護者も多いことと思いますが(私もそうでした)、小学生になったからといって、何でも自分でしてくれるようになる、と期待するのは時期尚早です。まだまだ親の手を借りて、少しずつ、時には後戻りもしながら、ひとりでやれることを増やしていくのが低学年の時期です。

 

●中学年(小学3・4年生)
 

<子どもたちの特徴>
中学年になると、幼児体型から全体的に均整の取れた身体になり、運動能力が飛躍的に発達します。仲間と取り組むチームスポーツや、ルールに則ったゲーム性のあるスポーツを好むようになります。

認知能力にも大きな飛躍が起こります。具体的なモノ(例えば、算数のおはじきなど)があれば論理的な思考(操作)ができる「具体的操作期」を経て、モノがなくても抽象的・論理的な思考ができるようになる「形式的操作期」に移行する時期と考えられています(注4)。抽象的な思考ができるようになるのに伴い、自分自身の考えや行動を客観的に認識できるようになったり、他者の視点に立って物事を判断できるようになったり、過去・現在・未来といった時間の展望ができるようになったりして、大人の認知能力にかなり近付いてきます。さらに、自分と他者の感情を理解すること、自分の感情表出をコントロールすることも上手になります。

社会面では、上で述べたように、他者の立場に立って、他者の考えや思いを理解できるようになります。それに加えて、他者が別の他者のことをどう思っているかも、かなり的確に推測できるようになります。自分が他者からどう見られるのかが気になり始め、特に友達に「同調」するような行動が増えます。親や先生などの大人が示した道徳的な規則を従順に守る「他律的な道徳的判断」から、大人から押し付けられた規則は変えることができると考える「自律的な道徳的判断」の段階に入っていきます。数人で仲間グループを作り、その中の絆・掟で行動し、時には大人が顔をしかめるような悪ふざけもする。中学年の子どもたちが「ギャングエイジ」と呼ばれる所以です(注5)。


<親の心構え>
上に挙げた認知能力の向上は、良いことばかりを子どもや親にもたらすわけではありません。子どもの内面では、世界の見え方が劇的に変化するのですが、当人はそれをうまく対処できない、うまく表現できない、ということが起こります。親の言動に対しても客観的に見るようになるため、親への批判をストレートに口にしたり、生意気な口答えをしたりし始めます。親としては戸惑い、腹も立ちますが、子どもたちに悪気はなく、親が自分の思いや考えを受け止めてくれるか試す行動なのです。あまり感情的に対応せず、さらりと受け流す余裕を持ちたいものです(自戒を込めて)。

もう一つ、この時期に特に注意したいのが、子どもの自己肯定感の低下です。自分を客観的に分析して他者と比較できるようになるため、自分が得意なこと・苦手なことをはっきりと意識し始めます。「〇〇ちゃんはこれが得意なのに、私は苦手」「私には特技がなんにもない」などと不意につぶやいたりします(うちの娘も実際につぶやきました)。子どもの自己肯定感を育むには、他者と競争して勝ちたいという「優越欲求」を満たすことも一つの方法ですが、過去の自分と比べて今の自分が成長したことを肯定的に受け入れる「成長欲求」をうまく満たしてやることも有効です。お父さん、お母さんはぜひ、これまで以上にお子さんの良いところを見つけて積極的にほめてあげてください。ただし、子ども自身ができて当たり前だと思っていることをほめても、「なんでそんなことでほめられるの?」と逆にしらけさせてしまいます。子どもが努力した時、挑戦した時、人としての優しさや思いやりが伝わるような言動をした時、本人が自覚していない良いところが見えた時、タイミングを逃さず、具体的にほめてあげるのが大事です。

 


●高学年(小学5・6年生)
 

<子どもたちの特徴>
高学年の子どもたちの特徴は、なんといっても第二次性徴の発現で身体が急激に変化すること。男性と女性で体つきがはっきりと分かれ、大人のからだになる準備が進みます。活発な性ホルモンの分泌が、身体だけでなく精神にも影響を及ぼします。急激な身体変化に子どもの心がついていけず、戸惑ったり不安になったりします。ホルモンバランスが崩れやすくなるため、ささいなことで急に怒ったり、イライラして家族に八つ当たりしたりすることも多くなります。

認知発達の面では、言語や記号を使って論理的・抽象的思考を行う「形式的操作期」への移行が進みます。学習する内容もより高度になり、それまでの学習・経験の積み重ねがいっそう大事になる時期です。逆に言えば、土台づくりや積み重ねがうまくなされていなかったことが、特定の科目に対する苦手意識や勉強嫌いの形で表面化する時期でもあります。

身体的な変化に伴い、自己に向ける意識が強くなるため、「自分とは何か」というアイデンティティ(自己イメージ)の問題にも直面します。同様に、「生とは、死とは」「なぜ勉強しないといけないのか」といった物事の本質を問う疑問を持つようになり、悩んだり考え込んだりする姿も増えてきます。

人との関わりの面では、親に心理的に依存している状態から、親からの自立に向けて一歩踏み出します。口数が減り、なにを尋ねても「別に」「知らない」「フツー」と、そっけない。かと思うと、親が忙しいときにかぎって、まとわりついて話を聞いてほしがったりする。親からの口出しに反発する。秘密を持つようになる。親より友達優先。これらはすべて、親の価値観に従う「他律」から、自分なりの価値観に基づく「自律」へ移行する過渡期であることを示すものです。


<親の心構え>
子どもが親からの自立(反抗)と親への依存(甘え)の相反する2つの気持ちの間でゆれ動くことに翻弄され、親のほうも、子どものことが理解できなくなった、子どもが扱いづらくなった、と感じるのは自然なことです。しかし、子どもの不愉快な言動は、子どもが健康に発達していて、「子どもの自立に耐えられる親として子どもから信頼されている証拠」(注6)なのだとポジティブに受け止めてみたらどうでしょうか。この時期の親には、子どもにあれこれ口出ししたくなるのをグッとこらえ、一定の距離を保って、でも目は離さずに見守る忍耐力が要求されます。子どもがコミュニケーションを閉じている状態ならば、あえて深追いせずにそっとしておく。何か話したそうであれば、耳を傾けて関心を寄せる。親の価値観を押し付けるのではなく、子どもの主体性・価値観を尊重する姿勢を示す。でも問題行動があったときには「そういうことはしてほしくない、それは間違っていると私は思う」とはっきりと伝える。不安定な時期の子どもの存在を肯定することは、徐々に子ども扱いから大人としての扱いに変えていくことになるのです。



注1:参考図書
『児童心理』2016年4月臨時増刊号「小学一・二年生の家庭教育」
『児童心理』2016年6月臨時増刊号「小学三・四年生の家庭教育」
『児童心理』2016年10月臨時増刊号「小学五・六年生の家庭教育」
注2:野口隆子ほか(2010)「園文化から学校文化への移行経験(2)ー親の認識の変化と子どもに及ぼす影響」『日本保育学会第63回大会発表論文要旨集』p.379
注3:ベネッセ教育総合研究所(2016)『幼児期から小学1年生の家庭教育調査・縦断調査(速報版)』
注4:ピアジェ、J(著)、中垣啓(訳)(2007)『ピアジェに学ぶ認知発達の科学』北大路書房
注5:ただし現在では「ギャングエイジ」という呼び方をすることは少なくなっています。放課後、個々の子どもが塾や習い事の予定で多忙だったり、安全面から子どもたちだけで外遊びがしづらくなったりしていて、「群れて遊ぶ」機会が減っているためです。
注6:水島広子(2011)『10代の子を持つ親が知っておきたいことー思春期の心と向き合う』紀伊國屋書店
鈴木佳奈 広島国際大学 
健康科学部心理学科 准教授
博士(学術)
大学生を対象とするコミュニケーション教育(日本語の読み書き、アカデミックライティング、プレゼンテーション、ディベート)に携わっています。
専門分野は社会言語学、会話分析。日常会話を分析して、私たちがことばを使いながらどのようにお互いを理解し合ったり誤解したりしているのかを調べます。プライベートでも、9歳の娘とのコミュニケーションに笑ったり怒ったりしています。
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