子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】子どもの習い事について


新型コロナウイルス感染拡大により、私たちの生活は一変しました。ようやく学校も再開し、少しずつ子どもたちも日常を取り戻しつつありますが、感染の恐怖がほんの少し遠のくと、いろいろ気になることも出てきました。子どもたちの学校生活での制約の多さや相次ぐ行事の縮小など、子どもにとって大切な人・コト、自然との出会いや経験の機会が減少しています。「3密」を避けるためには仕方がないとはいえ、子どもにとっても親にとっても大変残念なことです。緊急事態宣言が発令された当初はほとんどのスイミングスクールや英会話、音楽教室が休講になりましたが、夏以降少しずつレッスンが再開されているようです。最近の「子どもの習い事」事情や、習い事を始めるうえで大切なことを考えてみましょう。

 


●世界の習い事

ベネッセが2018年に実施した「幼児期の家庭教育国際調査」によると、習い事をしている日本の幼児(4~6歳)の比率は67.6%です。中国では90.6%、フィンランドでは78.3%、インドネシアでは45.7%です。習い事の内容は、フィンランドと日本では「スイミング」が1位、中国では「英会話などの語学の教室」、インドネシアでは「コーランの読み書き」です。お国柄や宗教の影響があることが分かります。

 


幼児期の子どもたちの習い事には子育てや子どもの教育に対する親の意識が反映されています。日本やフィンランドでは、幼児期の体力づくりに関心が高いことが分かります。中国では、幼いころから芸術的才能を伸ばすことや外国語を身につけることへの関心が高く、最近、芸術やIT分野で世界的な活躍が著しいのもなるほど…という結果です。インドネシアでは「学習」タイプの習い事が多いですが、コーランの読み書きは地域のボランティアが教えることが多いそうです。インドネシアでは、幼児の習い事があまり普及していないことがうかがえます。

 


●習い事の種類

習い事には大きく分けると、スイミングや体操、サッカーなどの「スポーツ活動」、楽器のレッスンや絵画・造形、バレエなどの「芸術活動」、英会話や学習塾、そろばん、計算・漢字教材教室などの「学習活動」があります。スポーツと芸術は、年長児と小学生の割合が高く、学習活動は小学校高学年で高くなっています。

 


●子どもにとっての習い事とは
 

現在、幼児から小学生まで、さまざまな教室や習い事があふれています。教室の形態も大手のスクールから、町の教室、個人レッスン、自治体主催、地域ボランティアによる運営まで幅広く、何をどう選べばいいのか迷ってしまうという方も多いと思います。

学生が「幼児期の習い事」を卒業論文のテーマとして取り上げ、大学生に調査をしたことがあります。私が結果を見て少し驚いたのは、多くの学生が幼児期の習い事をふり返り、総じて肯定的に評価していることでした。「嫌々行かされていた」という声もありましたが、楽しかったと感じている人が多く、なかには進路選択に影響したという声もあり、習い事をやっていてよかったという意見が大半でした。

始めたきっかけとしては、幼児期ではやはり親からの提案が多い一方、小学生以上になると、子ども自身がやりたいと言い出したり、周囲の影響を受けて始めることが多いようです。多くの人は、複数の習い事を経験していますが、並行してならっているのは二つくらいで、途中でやめることも多く、最終的にある程度続けたといえるものは一つというケースが一般的です。中学生になると、部活動や学習に時間をとられるようになることから、学習塾以外のお稽古事を続ける人は一気に減少します。

子どもにとっての習い事は、何かを究めるきっかけというより、気軽に楽しむ趣味程度のものなのかもしれません。冷静に考えてみると、スポーツや芸術を生業とするのはごく一部の人に限られているので、子どもの習い事に過度の期待を抱いたり、それほど真剣に悩む必要はないのかも、と思えてしまいますね。

それでは、子どもの習い事は必要ないのでしょうか。
子どもは好奇心にあふれた存在です。子どもが家で過ごす時間、遊び相手や自由に遊べる安全な環境が十分あればいいのですが、働く親が増えた現在、なかなかそうもいきません。室内にいると、ついついスマホやタブレットを見たり、ゲームをしたりして過ごす時間が増えてしまいます。子どもの成長には実際に体を動かし、五感を使う体験が必要です。とはいえ何もかもを、親が自分でする必要はなく、習い事を活用し専門家に任せるのも一つの解決策です。

 


●はじめる前に・はじめてからも気をつけたいこと

〇費用はいくらまで
幼児期の習い事は、月数千円から始められるものが多く、入り口のハードルは低くなっています。しかし、スポーツ活動の場合、用具やユニフォームの購入、ピアノやバレエでは発表会の費用が必要なこともあります。きょうだいがいる場合、上の子と同じようにしてあげたいのが親ごころ。

いったん始めるとなかなか削れないのが、子どもの教育費です。気づけば月数万円で家計圧迫とならないよう、予算をしっかり考えることが必要だと思います。

幼児教育無償化により、小学校くらいまでの教育費負担は低減されてきましたが、その後の教育費増加に備えて貯蓄しておくことも大切です。自治体やボランティア団体、大学なども、幼児・小中学生を対象とした無料の催し事や教室を企画しているので、積極的に活用してみてはいかがでしょうか。


〇親のかかわりは
幼児や小学生を対象とする習い事では、保護者の関与が積極的に求められるものもあります。スポーツ少年団は、保護者やボランティアにより運営されているため、日常の練習補助や運営の実務は保護者が担うことがほとんどです。親の参加や協力がどの程度必要なのか、自分がそれをできるのかどうかなどは、事前に確認しておく必要があります。



〇子どもが楽しんでいるか
体験教室に行くと、よほどのことがない限り、子どもは「行きたい、やってみたい」と言います。親としては「あなたが習いたいと言ったでしょ」と、続けることに意義を見出しがちですが、子どもの様子をよく見て、話を聞いてあげることが必要です。

最近では、学童保育代わりに、週5で習い事をしたり、さらには中学受験のための塾通いをかけ持ちしたりしている小学校高学年の子どもたちがいます。放課後の子どもの安全を考えてのことだとは思いますが、子どもにとっては、友だちと遊ぶ時間、家でゴロゴロする時間、何もしない時間というのも大切です。スケジュールが過密になってないか、疲れていないか、放課後の過ごし方について子どもの気持ちをよく聞き、話し合ってみましょう。

 
中村勝美
広島女学院大学
人間生活学部児童教育学科 教授

専門分野は、保育学、教育学・教育史
今から100年以上前のイギリスの子どもや乳幼児保護の歴史について調べています。イギリスは世界で最も早く工業化や都市化が進み、都市の生活環境の悪化や貧困、母親の就業による子育ての問題が生じました。現代の日本では、なぜ「子育ては大変」と感じる人が増えているのか、子育てが楽しい社会には何が必要なのか、「バァバの子育て支援広場」や「よるのとしょかん―ぬいぐるみたちの大冒険」等の活動を通して学生とともに考えています。
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