子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】うちの子、毎朝なかなか起きてくれません…。

今回のお題は、「正しい睡眠について」です。このコラムでは,主に小学生の子どもと親とのコミュニケーションにかかわる問題について,心理学や言語学での考え方を紹介しつつ,また私自身9歳の娘がいる母親という立場から,みなさんと一緒に考えてみたいと思っています。
 

恥ずかしながら、うちの娘は朝起きるのがとても苦手です。ひどい時には30分もベッドの脇につきっきりで、声をかけたり音楽や動画を流したり、手を替え品を替えして目を開けさせなければいけません。それでも学校がある日は、本人も「起きなきゃ」とがんばるのですが、休みの日はついつい朝寝坊に。どうすればぐっすり寝てスッキリ起きられるのでしょうか。

私たちは毎日睡眠をとっているのに、睡眠についての正しい知識を学ぶ機会はあまりないですよね。子どもの頃に親から言われたことや経験則で「なんとなくこうすれば良さそう」と思い込んでいることも多いかもしれません。学問や研究が進んで、それまで常識とされていた考え方が実は違っていた、ということもありそうです。

 

まずは、クイズでチェックしてみましょう。睡眠に関する以下の項目で、正しいと思うものに○、違うと思うものに×をつけてください(注)。
 

では、それぞれについて解説していきます。
 

◇睡眠が十分に取れないと、脳の働きが悪化する。
 

(答え ○)
睡眠には、身体を休ませると同時に、脳を休ませる役割があります。夜更かしして睡眠が足りなくなると、人間の思考や記憶を司る脳の「前頭葉」の働きが鈍くなります。すると、感情のコントロールが難しくなってイライラしやすくなります。集中力や記憶力も低下します。やる気が起きず、物事を判断したり、未来の計画を立てたり、ひらめきによってアイディアを得ることがしにくくなります。人のこころを推し量る能力も低下して、人への気配りができなくなります。さらに、授業中に居眠りをして先生の話を聞き逃すと、そこがつまずきとなって、学業成績の低下にもつながります。人間らしい、高度な思考をするためには、睡眠によって脳をしっかり休ませることが大事なんですね。

 

◇睡眠時間は8時間がちょうどよい。
 

(答え ×)
私たちの睡眠には、リズムがあります。眠りに入って最初の3時間は、深い眠り(ノンレム睡眠)が集中する時間帯です。体も脳も休んでいます。この時、私たちの体内では成長ホルモンが分泌されます。子どもであれば成長が促され、大人でも傷んだ体の組織が修復されたり免疫が高まったりします。その後、およそ90分周期で深い眠りと浅い眠り(レム睡眠)が繰り返されます。レム睡眠中は、体は眠っていますが、脳は起きて活発に動いている状態になります。この時、昼間のうちに脳の「海馬」に収納された情報が記憶として定着します。脳が活動している状態なので夢を見やすく、また目が覚めやすいという特徴もあります。一般に、90分周期で訪れるレム睡眠の時に覚醒するとスッキリ目覚めると言われます。ただし、適正な睡眠時間は、人によって異なるようです。翌日に眠気がなく、頭が冴えて体調がよくなるような睡眠時間の長さを、自分で体感して決めるのがよいそうです。

 

◇まぶしいので、朝起きてすぐに
 カーテンを開けないほうがよい。

 

(答え ×)
人間の生体リズムは1日24時間より少し長くて、約25時間なのだそうです。その1時間のずれを、私たちは自然に調整しています。脳内の時計をセットし直すのに大切なのが、朝、太陽の光を浴びること。そのため、朝起きたらカーテンを開けて光をしっかり浴びましょう。ちなみに、朝食をきちんと摂ると、体内の腹時計もセットし直されるそうです。

 

◇帰宅後の夕方に、眠たくなったら寝たほうがよい。
 

(答え ×)
夕方以降の居眠りは、眠るエネルギーをムダづかいするようなもの。夕方から就床前は、夜に眠りたい時間と同じ時間だけ、起き続けておいたほうがいいそうです。例えば、22時に寝て朝6時に起きたい、つまり8時間寝たい場合には、22時から逆算して8時間前の14時からはずっと起き続けているほうがいいんですね。どうしても夕方に居眠りしてしまう時は、昼休みや授業の合間などに10~15分の短い昼寝をするのが効果的。目をつむって机にふせるだけでもよいようです。この時にがっつリ長く寝てしまうと逆効果なのでご注意を。


 

◇眠る前にぬるめのお風呂に入るとよく眠れる。

 

(答え ○)
私たちの体は、夜になると体温が下がり、眠りに入ります。寝る1時間くらい前に、38~41度のぬるめのお風呂にゆっくりつかると、体温がちょっとだけ上がり、その後で体温が下がりやすくなるため、寝つきがよくなります。また、ぬるめのお風呂にはリラックス効果もあります。リラックスすると、手足があたたかくなって、体内の熱を手足から外に逃がしやすくなります。寝つきやすさとのかかわりで、体温とともに重要なのが、私たちが目から受ける光の刺激。夜に明るい光を浴びると、脳の興奮が高まって、眠りにくくなります。また周囲が明るすぎると、脳がまだ夜ではないと勘違いし、眠りを促すメラトニンというホルモン物質も出にくくなります。寝る1時間前にはテレビ、パソコン、スマホを消し、部屋の明かりを半分くらいに落とすか、間接照明に切り替えるとよいでしょう。

 

◇眠れない時でも、ベッドで横になっているのがよい。
 

(答え ×)
ベッドの横になったものの、眠れない。悩みごとが頭から離れない。そんな時、無理に眠ろうとしても、眠れないことがストレスとなってかえって脳が興奮してしまいます。眠れない時は、一旦寝床から離れて、水を飲む、パジャマを着替えるなど、気分転換をしてみましょう。リラックスできるような音楽を聞いたり、好きな香りを嗅いだりするのもよいそうです。悩みごとがあるなら、「悩みごと帳」に気になることを書き込んで、「これは明日起きたら考えよう」と割り切ってしまうのも一案です。

 

◇平日の眠りが足りない時は、
 休日に「寝溜め」すればよい。

 

(答え ×)
平日の寝不足を補おうとして、休日に遅くまで寝てしまうのは、身体のリズムを狂わせる原因になります。夜の寝つきも遅くなり、結果的に、週明けの月曜日には眠気が強まってしまいます。一旦リズムが狂ってしまうと、戻すのに水曜日くらいまでかかってしまいます。休日に寝坊したい時でも普段の起床時間から2時間を超えないようにし、起きたら太陽の光を浴びて、身体のリズムが狂わないようにします。睡眠不足は昼寝で補いましょう。

 

◇睡眠と肥満は関係がある。
 

(答え ○)
睡眠が不足すると、味覚が鈍感になります。甘味にも鈍感になるため、つい甘いものを摂りがちです。また睡眠不足は、脳の満腹中枢に「お腹いっぱい」と信号を送るホルモン(レプチン)を減らし、反対に空腹中枢に「お腹空いた」と信号を送るホルモン(グレリン)を増やします。そのため、夜遅くに「お腹空いた」と感じて、つい食べてしまったりするのです。夜遅い時間の食事は、体内時計を乱し、肥満のリスクを高めます。さらに、朝寝坊して朝食を抜く生活が続くと、体が自分を飢餓状態から守ろうとして、昼や夜に食べたものを脂肪として蓄えるようになります。しっかり寝ないと、太りやすくなるのです。

 

睡眠は、子どもにとっても大人にとっても、心身の健康を保つためにとても大切なもの。毎日のことだからこそ、ないがしろにせず、質の高い睡眠ライフを心がけたいものです。


注)今回の話は、睡眠学がご専門の、広島国際大学健康科学部・田中秀樹教授からいただいた資料に基づいています。田中教授、ありがとうございます。


 
鈴木佳奈 広島国際大学 
健康科学部心理学科 准教授
博士(学術)
大学生を対象とするコミュニケーション教育(日本語の読み書き、アカデミックライティング、プレゼンテーション、ディベート)に携わっています。
専門分野は社会言語学、会話分析。日常会話を分析して、私たちがことばを使いながらどのようにお互いを理解し合ったり誤解したりしているのかを調べます。プライベートでも、9歳の娘とのコミュニケーションに笑ったり怒ったりしています。
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