子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】うちの子、授業についていけないようです…。


ご心配ですね。お子様に関する詳しい情報がありませんので、一般的なお話になりますが、ご容赦ください。お子様が授業についていけないことを、子どもの成長過程で最初に強く感じるのが、小学校の低学年あたりではないでしょうか。このことについて原因と対処の2つの視点から少しご説明します。

 


●授業についていけなくなっている原因は?

まず、授業についていけなくなる原因ですが、これには様々なものが考えられます。それも1つではなく、複数の要因が関与していることの方が多いです。他にももちろんありますが、主な要因としては、「一過性の要因」「心因性の要因」「身体的な要因」「発達障害に起因する要因」などが考えられます。

 


●一過性の要因

一過性の要因には、気分的な要因が含まれます。例えば、朝、学校に登校する前に家の人に叱られて気分が滅入ってしまう、などのことです。気分がのらないために一時的に授業に身が入らなくなり、結果として授業内容が分からなくなる様子がこれに当てはまります。この一過性の気分的な要因については、あまり心配する必要はないと思いますが、回数が重なると心因性の症状が現れることもあるので、その点は注意が必要です。

この他の一過性の要因には、いわゆるスロースターター(軌道に乗るまでに時間が必要な人)があります。最後にはすべてできるのだけれど、「理解する(腑に落ちる)までに時間がかかる」「自分なりの勉強方法を見つけられるまで時間を要する」などの特徴が一時的な学習の障壁になり、場面によっては授業についていけていないように見えるものです。この様子が見られるのは、入学して間もなくの時期や新しい学年の最初、新しい授業内容になったときや授業の方法が変わった直後などのタイミングです。この場合も、学習以外の場面での様子で、情緒や理解力、表現力に不安がなければ、しばらく見守ってあげたり、本人からの求めに応じて必要な援助をしてあげたりするのがよいかと思います。


 

●心因性の要因
 

これは悩みやストレス状況などの心理的葛藤から様々な症状が生じるものです。発達期にある子どもは、家庭環境(成育歴を含む)や生活環境の変化、また友達との関係性などに大きな影響を受けます。これらの環境や関係性の変化が複雑に絡み合っていることも珍しくありません。この悩みやストレスが常に心にあって、授業どころではない心情に陥ることで、結果的に授業についていけなくなっているのかもしれません。これらの要因に思い当たることがあるようでしたら、本人の様子に合わせて、直接、話をして原因について一緒に考えることや、対処の方法やその結果について見通しを知らせることで、楽になり、授業に気持ちを向けることができる場合があります。ただ、小学校の高学年から中学生あたりの年齢のお子さんには、直接話をすることが難しかったり、かえって事態をこじらせたりすることもあります。ご存知のように思春期に入ると、自分の考えを誰かに知られることを極端に嫌ったり、通常であれば自然に受け取れる行為も腹立たしく思えたりすることもあるからです。ぜひ、本人のその時の様子や性格に合わせて、心因性の要因に対処することをお勧めします。また、心因性の要因がある場合には、腹痛、頭痛、発熱、咳など身体的な変調を伴うことも多いようです。不登校の状態になる前には、これらの身体的症状が断続・継続的に現れることも多いので、一つのバロメーターにもなるでしょう。ただ、症状がひどかったり、長期に及んでいたりする場合は、迷わず医療機関にご相談されることをお勧めします。

 

●身体的な要因

それまで本人は全く気にする様子がなかったが、片方の耳が聞こえにくい状態であったとか、黒板が実は見えにくかった、ということが、稀に小学校に入って自覚されるようなケースがあります。これらのことが原因で、実は先生の指示や説明が部分的にしか入っていなかったとか、このことが言えずにできない、分からないことを抱えたまま毎日を過ごしていたなどのことで、結果的に授業についていけない状態になることもあるでしょう。もし、身体的な要因が明らかになれば、医療機関で指示を受けるとともに、教室でできる工夫を学校の先生と一緒に考えていくのがよいと思います。また本人には「あなたが悪いわけでも、努力不足でもないよ」とのことを伝えて、気持ちを楽にしてあげる配慮も大切です。この配慮によって本人は抱えていた困難な状態を話しやすくなり、本人の困難な状態が詳しく学校の先生に伝わることで、より適切な支援を受けられるようになるからです。

 

●発達障害に起因する要因
 

最初に敢えてお断りしておきますが、この要因についてのここでの説明は、あくまで「発達障害の多くに見られる症状(表面的に見える様子)」です。診断は、然るべき医療機関の専門の医師からのみ出されるものです。お子様に同様の症状があっても、すぐに障害を疑うのではなく、まずは行動上の様子としてとらえて対処していただきたいと思います。

発達障害には自閉スペクトラム症や注意欠如多動症、限局性学習症が含まれます。これらの症状では、「話し言葉の適切な理解が困難」「集中することが困難」「順序だてて物事を考えることが困難」「相手の立場に立って考えることが困難」など、学校の授業に必要な多くのことに困難が起こり得ます。特に、限局性学習症(旧 学習障害)の特徴には、文字を読むことや書くことが困難、計算することが困難、推論することが困難など、学習上の困難に直接つながる症状が見られます。また注意欠如多動症(ADHD)では、思考そのものには不全はなくとも、注意のコントロールがうまくいかないために(注意散漫など)、症状として、先生の説明を最後まで聞けなくて考えられなかったり、自分のやっていたことが途中やめに終わったりすることが多く見られます。これらの症状は、いわゆる学校での成績に大きく影響します。

これらの症状が脳の機能不全に起因する症状(発達障害の場合)だとすれば、本人は「一生懸命に努力しているのだけれど、なぜかうまくいかない」という気持ちでいます。この地点で既に、本人はかなり自信をなくしますし、疲れてもいます。にもかかわらず、周囲の大人が、この発達障害に見られる症状は脳の機能不全に端を発するものだと理解していない場合には、叱ったり、過重な練習をさせたりすることも少なくありません。そうなると「学校に行かない」「暴れる」などの二次的な困難を招くことになります。既にお分かりだと思いますが、原因が脳機能にある発達障害の症状の場合は、その困難の特徴を本人と周囲の両方が正確に理解し、必要な支援を本人が求めたり、周囲が与えたりすることが必要です。支援の出発点は、子どもの困難の正確な把握です。上記のような様子が見られる場合は、医療機関や発達相談センター等、困難への対応に助言をいただける機関に相談することも方法の一つです。

 

●まずは、担任やコーディネーターの先生に
 相談しましょう。


ここまで、家庭でできることや相談機関にかかることなど、いくつかの対処法をご紹介しました。しかし、いずれの要因においても、授業についていけない様子が起こっているのは学校なのですから、まずは担任の先生や学校にいるコーディネーターの先生に相談するのがよいと思います。なにより学校の先生は、子どもを一番近くで毎日見ているので、子どもの様子を保護者の次くらいによく理解しています。その上、学校の、特にコーディネーターの先生は、上述の相談機関等のネットワークももっています。ですから、日々の子どもの様子を踏まえた相談機関に関する適切なアドバイスがいただける可能性も大いにあります。気になることがあれば、ぜひ一度ご相談されてもよいかと思います。

色々とご紹介をいたしましたが、お子様の様子をじっくりと把握し、学校をはじめとする然るべき機関との連携も視野に入れながら、ご対応をお願いできればと思います。お子様が授業に楽しく、充実した気持ちで参加される日が少しでも早く来ますようお祈りいたします。

 
大野呂 浩志 広島文化学園大学 学芸学部 子ども学科
准教授
学位:博士 (子ども学)
専門領域:知的障害、発達障害、特別支援教育
研究領域:実行機能に着目した知的障害児の適応行動の指導・支援、自閉スペクトラム症児の適応行動の改善、特別支援教育における自立活動
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