子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】英語学習、小学生から始めるべきか迷っています。


●小学校で英語を学ぶ理由

「英語ができるといいなあ!」こう願っておられる方はとても多いのではないでしょうか。おそらく理由はさまざまだと思います。学校で学んでいるから、受験で有利になるから、「グローバル化」の進む社会だから等、いろんな理由が考えられます。この他にも外国の人と意思疎通をしたり、外国語の文化について学ぶことが大切だからという理由もあるかもしれません。

さて、小さなお子さんをもつ方にとって、我が子を英語にどう触れさせるかは気になる問いです。このエッセイではまずは公教育における小学校英語について考えてみましょう。学校教育法第21条には義務教育の目標として以下の記載があります(以下、抜粋)。

「三 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。」

これを読むと義務教育において外国語を学ぶ意味が少し見えてきます。外国語学習は世界の平和と発展に貢献するという考え方です。自分とは異なる存在を深く理解し、尊重することの大切さがこの条文では謳われています。

 

 

●小学校の英語教育とは?

現在の小学校英語教育はこの理念に根差して展開されています。では実際に小学校ではどのような指導がなされているのでしょうか。

現在、小学校では3、4年生で「外国語活動」(年間35単位時間)、5、6年生で教科として「外国語」(年間70単位時間)を履修することが必須となっています(「外国語」と言っていますが、実質的には「英語」です)。3、4年生での「外国語活動」では「聞くこと」「話すこと」といった音声言語を中心とした活動、5、6年生ではこれに「読むこと」「書くこと」が加わり、4技能を学ぶことになります。さらに「話すこと」は「やり取り」と「発表」の2つに分けられますので、技能的には4技能、さらに話すことの2つを数えると5領域になるわけです。小学校での外国語の授業には「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点において目標を設定しています。すなわち修得した知識や技能を使って、目的や状況に応じて考え、判断しながらコミュニケーションを行うとともに、自らの学習を自分で管理できるようになることが求められています。

小学生が話す英語を聞いていると、自分の耳から入った(と思っている)音をそのまま再現していることも多く、オリジナルの発話と異なる発音をすることがあります。またapplesと言うべきところを単数形のappleと言うこともあります。これらは誤りと言えば誤りですが、目くじらをたてることではありません。言語は間違いを繰り返しながら使っていくことでマスターしていくものです。これを読んでいる方々のほとんどが日本語を母語としていると思いますが、私たちの日本語だって「完璧」な状況からはほど遠いものです。言葉の力は一生をかけて伸ばしていくものなのです。

 

 

●子どもが外国語(英語)を学ぶ意義とは?

人は常に自分とは異なるものと触れることで、自分を見つめ直すことができます。比較対象無しに自分だけを見ている文化は自らを絶対視し、他者の良さに気付こうとする姿勢を失ってしまいます。言葉には必ずその言葉を使用する生身の人間がいて、その人達は私たち同様に喜怒哀楽の感情をもち、日々失敗をしながらも明るく懸命に生きようとしています。言葉はその生身の人間の息遣いを感じる手段であり、外国語を学ぶことは自分の同時代の人々だけではなく、過去や未来にわたって、自分とは異なる人達とつながる可能性を提供してくれます。自分の前に広がる未知の世界、そして新たな出会い、それに積極的に向き合うことは子どもの成長にとってきわめて意味のあることです。英語で社会的な成功を収めることも大切です。しかしながら自分とは異なる人と共存できる人間に育つというのも意義のあることではないでしょうか。

子どもたちはみんな多様な個性をもっています。人と積極的に交わることが好きな子もいれば、一人でコツコツとものごとに取り組むのが好きな子、体を使って表現するのが好きな子、音楽的なセンスを持ち合わせた子等、みんな違っており、英語学習においても好きな活動は異なってきます。指導にあたる側としてはそれぞれの子どもの適性に合わせた指導法を採用して授業をデザインする必要があります。指導する側にとっては決して楽な仕事ではありませんが、英語の授業を通して、子どもが自分の良さに気付くことができれば本当に素晴らしいことだと思いませんか。

 

 

●家庭でできること

最初の問いに戻ります。小学校からの英語学習ですが、結論から言うと「親が気になるのであれば時間やお金が許す範囲内で学ばせるのも一つの手。ただしそれで子どもが英語嫌いになったり、英語エリート的な価値観を持つようになるのであればやらない方がまし。」というものです。言葉は他者の存在を認め尊重するために用いるべきです。英語が少々苦手でも自分とは異なる存在と交わろうと思える子どもに育ってくれた方が本人にとっても社会にとっても望ましいことではないでしょうか。

では、ご家庭ではどのような接し方をすれば良いのでしょうか。もしこれを読んでいる皆さんが小学生のお子さんをお持ちであれば、外国語に触れることを一緒に楽しんでください。「分からないから嫌い」ではなく「分からないことは面白い」と思える大人になってほしいのです。またお子さんが学校から帰ってきて英語の歌やチャンツを口ずさんでいたら、一緒に楽しんでみてください。親の支援的な態度は子どもにとっても大きな励みとなります(親の嫌いな食べ物は子どもも嫌いになることがありますよね)。親が英語を教えなくても、英語に好意を示し我が子の英語学習を応援することで子どもが英語好きになってくれたら、十分「教師」役を務めていると言えるのではないでしょうか。

学校教育には人が生涯にわたって学び続けることができるようになる下地作りの役割があります。小学校で英語を学んで英語嫌いになっては意味がありません。大切なのはこれから続く長い人生の中で、いったん英語とは疎遠になっても、機会が来れば「また、やってみようかな」と思えたり、自分と異なる言語を使う人に対して敬意と愛情をもって接することができる人間を育てることだと思います。親としては我が子が困難な状況におかれても学び続ける人間になってくれればこれほど嬉しいことはないのではないでしょうか。

 

 

●さいごに

子どもが劇的に成長する小学校時代に外国語に触れることは、言語への柔軟な接し方、そして異者への感受性を育てるために意味のあることと言えるかもしれません。しかしながら、小学校での英語教育は決して楽観的な話題ばかりではありません。指導者の養成・確保の問題、小中連携の問題など取り組むべき課題は山ほどあります。これらの問題を解決するためには私たちが当事者として声をあげ続けることが大切です。未来を担う子どもたちが、懐の深い人間になってくれるよう、大人である私たちには彼らを応援する義務があります。人任せではなく、我がこととして外国語教育を考えるようにしたいものです。

 
平本哲嗣
広島大学教育学部卒業、広島大学大学院修了。博士(教育学)。専門領域は初等・中等英語教育、英語教育政策、ICT利用の英語教育。文部省交換留学生として1991~1992年に英国オックスフォード大学に留学。現在、安田女子大学教育学部児童教育学科にて初等教員養成にあたっている。
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