2022年10月19日(水)
【よくある相談シリーズ】近頃、災害が多くて、子どものことが心配です。
●災害時、私たちがとるべき行動を知っておきましょう。
皆さんは、災害と聞くと、どのようなものをイメージされますでしょうか。地震?水害?土砂災害? 災害といってもその種類は多岐にわたりますし、その影響もそれぞれ異なります。そうしたことを踏まえ、ここでは避難を伴う災害発生時に子育て世帯がどのような困難に直面するのか、また災害発生時の注意点についてどんなことを子どもたちと共有しておくべきかを考えていきたいと思います。
私は、東日本大震災をきっかけに、災害発生時の子ども支援活動に取り組んできました。近年では、発災後すみやかに被災地入りし、避難所等での子どもの居場所支援活動にも参加しています。そうした中、災害時にはどうしても子どもたちの支援活動が充実していかない現実を見てきました。こうしたことも含めて、ここでは少しお話をしていきます。
●避難に適した場所は、災害の種類によって異なります。
さて、皆さんは、避難をしようと思ったとき、どこに避難すれば良いかをご存知でしょうか。最近では、市区町村のホームページなどでも確認できますが、実は災害の種類によって「適した避難所」が異なることもあります。また、避難所ではどのような生活を送るのでしょうか。それに伴い、避難所に何を持っていけばよいのか、何日ぐらい避難することを想定しているのか、といったことも、どれだけ考えられているでしょうか。こうしたことを考えることは簡単ではありません。また、往々にして災害はこうした予想を上回ってくるものです。
●災害発生時は、大人も子どもも気持ちが
不安定になります。
避難所において、子どもたちは普段と異なる環境におかれるため、不安になったり、妙にテンションが高くなったり、様々な形でその感情をあらわしてきます。ここで「子どもたちに寄り添って…」といったことを書くことはもちろん簡単です。しかし、実際には保護者の皆さんも被災し、そうした余裕がなかったり、また無理にそうした姿勢を維持しようとして体調を崩されることは少なくありません。さらに、家屋が被害を受けた場合は罹災証明書を取得しなければなりませんが、そのためには家屋の状況を説明することも必要になります。子どもたちが一緒にいたら、なかなかそうしたことを説明するのも精神的にしんどさを覚えることになるでしょう。このように、子育て世帯においては、保護者の方は子育てに加えて、被災者として様々なプレッシャー等に直面するのです。私個人の意見を述べれば、こうした状況を踏まえれば、1日でも早く子どもたちの居場所支援(預かり支援)等が行われることが必要だと考えています。しかし、子どもたちは見た目上は元気なことも多く、他の災害弱者といわれる人々と比較すると、その支援が後回しにされがちなことも現実として存在します。
●家族との連絡方法やルールをチェックしておきましょう。
さて、ではこうした災害を見越して、普段から子どもたちと何をどのように話しておくべきでしょうか。例えば、東日本大震災が発生した時間は、学年や地域にもよりますが、子どもたちが帰路につくタイミングでした。下手をすれば、子どもが一人でいる時間かもしれないのです。もちろん、子どもたちをやみくもに不安にさせる必要はないと思います。しかし、万が一、通学途中に災害が発生した場合、どこに集合するかといったことは決めておいても良いかもしれません。これも私見を述べれば、予測できない災害時にどのような行動をして命を守るのかを共有してくことが大事だと考えています。それ以外の部分は子どもたちの発達段階や皆さんのお住まいの地域が抱えているリスクなどをもとに検討いただくのが良いでしょう。
●「備える」「逃げる」「助け合う」を確認しておきましょう。
最後に、お住まいの地域が抱えているリスクは、日頃から考えておくことが大切です。言い換えるならば、どれだけ「想定外」をなくせるかが重要です。もし今回ここでお示ししたような内容をより詳しく知りたい方は、以下の論文で最近の研究動向をご紹介していますのでご覧いただければと思います。
残念ながら毎年のように災害が発生しています。しかし、その災害によって生じる様々なリスクは軽減することができます。一人でも多くの保護者と子どもたちが災害時においても人権が保障され、一刻でも早く日常に戻れるような仕組みづくりを私も行っていきたいと思います。
【参考資料】
伊藤駿・中丸和(2022)「災害時の子ども支援に関する研究の動向と今後の課題 ―災害時に子どもが直面する困難とその支援方策に着目して―」『子ども学論集』8, pp.69-79.
- 伊藤 駿
広島文化学園大学
学芸学部子ども学科 講師 - 日本学術振興会特別研究員、英国ダンディー大学研究員を経て、現在、広島文化学園大学学芸学部子ども学科講師。専門は比較教育社会学、インクルーシブ教育。主な業績として、『学力格差に向き合う学校』(共著)明石書店、2019年。「通常学校への全員就学をインクルーシブ教育として志向することに伴う困難―スコットランドにおけるACEsを有する子どもたちの事例から」『比較教育学研究』第59号, pp.2-22.