子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】うちの子、自己肯定感が低くて心配です。

●「自己肯定感」を巡る関心の高まりについて。
わが子に「自分のありのままの姿を好きでいてほしい」「いろいろなことに自信を持って前向きにチャレンジしてほしい」と願うことは、古今東西、多くの保護者に共通するものだろうと思います。

「自己に対して前向きで好ましく思うような態度や感情(田中,  2008)」を表す「自己肯定感」(Self-Esteem)という言葉は、(同じくSelf-Esteemの訳語である)「自尊感情」とほぼ同等のものと思っていただくと分かり易いと思いますが、その研究の歴史は長く、19世紀末には次のような公式で示されています(James, 1892);
「自尊感情」=成功/願望・・・・①

「こうありたい、こうなりたい」という願望以上の成功体験を収めるほどに高くなる、というこの公式は、なるほどと分かり易いものだろうと思います。「こうありたい、こうなりたい」という願望に対して十分な成功体験が持てなければ低くなるでしょうし、期待や可能性の方が一方的に高くなり過ぎても低くなってしまいます。いまの自分の在り様に根差した実現可能な範囲の期待を持ち、実際に取り組むなかで(周囲の評価も含めて)着実な成功体験を積み重ねることで高まっていくと考えられます。

この「自尊感情」は、日本ではその後「自己肯定感」と表現されることが多くなり、2010年代以降、わが国の教育課題としてにわかに注目されるようになりました。

「日本の若者は、諸外国の若者と比べて自身を肯定的に捉えている者の割合が低い」(内閣府、2013;2018)、「自己肯定感が低い児童生徒は、挑戦する意欲や達成感も低くなり易い」(文部科学省、2016)という調査結果を経て、「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子どもを育む」(教育再生実行会議、2017)ことが目指されるようになったことは、ご存じの方も多いかもしれません。

益々変化する予測の難しい時代を生きる子どもたちに、自分自身を価値ある存在として認め、主体的に物事と向き合う意欲や態度を持ってほしいという願いは、多くの教育関係者に共通するものだろうと思いますし、必ずしも自分を肯定的に捉えていないわが子の姿に心配される保護者の方も多くいらっしゃることと思います。
●「自己を肯定できないこと」も成長の過程です。
私も一人の親として、わが子に十分な「自己肯定感」を育んでほしいと願う一方で、子どもの発達や学習を専門とする研究者としては、特に小学校中~高学年という年代を考えた場合、自分を肯定的に捉えられないことは健全に成長する過程で常に起き得ることだろうとも考えます。

一般的に、「自己肯定感」は児童期前半(低~中学年)には高く保たれていたとしても、児童期後半(中~高学年)から青年期にかけて低下してくることが多く見られます。あらためて①の公式の関係を表した図を見ていただけると分かり易いかと思いますが、これまでと同程度の成功体験(結果、現実としての自分の姿)をしたとしても、願望(期待、理想とする自分の姿)が大きいほど「自己肯定感」は低くなるためです。
 

児童期後半(中~高学年)には認知能力が発達することで、いま現在の自分の在り様から離れて将来的にあり得ること(理想とする自分の姿)について、「こうありたい」「こうなりたい」と可能性の文脈で見通しや展望を持てるようになります。理想とする自分の在り方を高く掲げると同時に、現実の自分についても厳しく批判的に見られるようになることで、「自分はまだまだだ」と自分のことを肯定的に捉えにくくもなります。

これは、子どもが健全に成長する過程で一般的によく起き得ることで、もちろん目標(理想とする自分の姿)を下げれば自己肯定感は高くはなるでしょうが、一見して高くなるからといってそのような変化を望まれる方は多くはないのではないかと思います。今の自分よりも高いところに目標を掲げて、より良くなりたいと願う姿は、向上心や挑戦する意欲の顕れとして、正に子どもに望む成長の姿だからです。

●「なぜ肯定できていないのか」
 「何か差し障りが生じているか」を考えましょう。

もちろん、児童期後半(中~高学年)に「自己肯定感」が低いことは、特に問題のない場合ばかりではなく、お子様ご自身が大変苦しい思いをされているケースもあります。この時期には自分以外の他者の考えや評価についても根拠を基に推論できるようになることで、他者から見た自分への評価が気になるようになります。

直接見聞きしていない他者からの評価について「こうに違いない」と感情的な決めつけをしてしまったり、(たまたま1回のテストで良い成績が取れなかった等の)少しの事実から(「勉強全般が苦手だ」というような)過度な一般化を行ってしまい、それが「自己肯定感」や学習意欲の低下に繋がることもあります。

そのような場合には、自分に対する意識が安定的で肯定的なものとして育めるように、親や保護者の方には常に一貫性のある支持的な態度で関わっていただければと思いますし、他者との比較や(想像した)他者からの評価ではなく、過去の自分との比較で着実な進歩や成長を実感してほしいこと、他者と共通する分野で優位でなかったとしても、自分の興味関心に基づいて前向きに進んでいけることが大切であることなども、積極的に伝えていただければと思います。お子様の「自己肯定感」が低いというだけではなく、なぜ自分のことを肯定できていないのか、それは何か差し障りを生じているか、を考えながら接し方を工夫していただければと思います。
五十嵐 亮(いがらし りょう)
安田女子大学教育学部児童教育学科 准教授。京都大学教育学部卒業、九州大学大学院修士課程修了、同博士後期課程単位取得後退学。博士(心理学)。専門は教育心理学に発達心理学、教育工学と、新しいことが「わかる」「出来る」「身に付く」メカニズムを探究し、学習者を支援する学問分野です。主に授業分析方法の開発や、教師や教職課程学生の学習過程、(「自ら学ぶ力」の形成過程や自己調整学習方略の獲得支援など)子どもの認知発達に関する研究を行っています。プライベートでは、7歳の娘と5歳の息子の子育てに、日々試行錯誤中です。
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