子育てアドバイス

【よくある相談シリーズ】中学受験を進めるべきか、悩んでいます…。

●広島県で中学受験をする人ってどれぐらい?
コロナ禍の状況が落ち着きを見せ始めた2023年度、首都圏での中学受験は、急増傾向にあったようです。ダイアモンド社の記事によると、1都3県の小6人口はほぼ前年並み、東京を除くと微減傾向でしたが、2月1日午前の受験者数は4万3016人と前年より2.6%増(2023年2月17日現在)で、大幅に増えていました。ちなみに、中学受験の急増は、ゆとり教育といわれる学習指導要領で学習内容が削減された後にも起きていました。成績の格差が広がる傾向がみられると、それを補うように中学受験が選択されやすいようです。

では、広島県での中学受験はどうでしょうか。ベネッセコーポレーションが2007年にまとめた資料を見れば、広島県は中学受験をする子どもが多いことが分かります。以前は、中学受験と言えば、私立中学校もしくは国立大学附属中学校でしたが、現在は、公立の中学高校一貫校が増加し、中学受験者数も全国的に増えています。中学受験に取り組んでいる子どもは多くのクラスに何人もおり、一般化しています。しかし、一般化しているという理由で安易に中学受験を選択するのではなく、メリットとデメリットを把握して臨むことが大切です。
●中学受験のデメリットは?
中学受験のデメリットは、親と子どもだけでなく、きょうだいや家族にも負担が増えることです。塾などの教育費以外にも交通費、受験に関わる諸々の準備費など、予想以上の経済的負担が発生します。受験ですので合格と不合格の結果が伴い、それ以前にもテストの成績の向上などの精神的負担や不安感があります。受験する子どもはもちろん、それを取り巻くきょうだいや家族にも精神的負担がかかってくることを忘れてはいけません。

多くの中学受験は、小学校中学年から始まる傾向があるので、本来であれば思いっきり遊べる時間が受験のために削られ、子どもらしい時間を過ごす期間が減ってしまうことも少なくない状況です。

中学受験をした保護者アンケートによると、中学受験を途中でやめさせようと思った保護者は39.2%もおり、その理由は「受験勉強が大変」「子どもが疲れやストレスを感じている」「子どもらしい生活を送れない」「遊びや運動の時間が取れない」と回答されています(村井潤一郎他(2022)「中学受験の心理と課題」『教育心理学年報 61』267-278頁より引用)。

これは、幼児の早期教育にも当てはまることでしょう。成績や上達が見られる子どもの時間をどのように過ごすか、子どもだけで決めることは難しく、家庭の影響や親の価値観が大きく反映されてしまいます。良かれと思った中学受験が成長のチャンスを減らしてしまうリスクは事前に理解しておくべきでしょう。また、経済的や心理的負担感の増加が、思春期の初期段階に入っている子どもとの関係を複雑化し、「親子関係が悪化した」との報告もあります。

中学受験の課題は、受験の時期のみでは終わりません。多くは私立学校を受験しているために、私立学校が持つ理念や価値観にも合わせたその学校特有の教育への理解も不可欠です。残念なことに、入学後に学校不適応になり、退学をしてしまうケースも珍しくありません。

要因は、「公立小学校までは優秀な成績であったが、進学した中学校ではより優秀な生徒が多くおり、これまでのスキルでは対応できなかったという挫折」「公立小学校では、学業成績優秀で人間関係のトラブルがあっても寛容に対応されていたが、進学した学校ではそうではなかった」「中学受験のために親があれこれすべて行っていたために、自分で解決することができなくなっていた」などです。さらに、私立学校の多くは、学費の負担も公立中学校よりかかります。また、教育に熱心な保護者も公立中学より多い傾向があるため、保護者会の参加や役割も多々あるようです。これらのことを理解し、受験とその後の中学高校の学校生活への準備や心構えをもって受験されることをお勧めします。
●中学受験のメリットは?
先述のように少なくないデメリットがある中学受験が、増加傾向にあるのは何故でしょうか。それは、中学受験のメリットが多くあるからです。中学受験を経験した親は、子どもに中学受験をすすめる傾向が高いです。それだけ、中学受験をして良かったと思っている中学受験経験者が多いのです。

メリットは複数ありますが、最も高いのは環境の差です。中学受験で進学した私立中学は一貫校が多く、高校受験がありません。高校受験のための時間を他のことに費やせます。大学受験勉強の先取りもありますが、海外留学やクラブ活動や習い事などに十分時間を充てることができます。そのため、公立中学校よりも、学力は二極化傾向が生まれやすいようです。しかし、中学受験をして入学した子どもたちは、同じような家庭環境や価値観や学力である傾向が高く、公立中学校の子どもたちの家庭環境の多様性とは全く異なります。同質集団の中での環境は、安心感を持ちやすく、学校適応ができた子どもにとっては居心地がよい空間となっていきます。さらに、大学受験に早めに取り組める傾向がある私立学校や中高一貫校では、大学受験の実績が高いというメリットがあります。
●中学受験での最大の課題は、親子関係です。
中学受験のメリットだけを見るのではなく、デメリットも理解し、それに備え、子どもに過度の期待や教育虐待といった親主体の受験をしないことを親自身が自覚することが大切でしょう。そのためにはまず、子どもの関心や希望を聞けるような、親の思いを丁寧に伝えられるような、良好な関係をぜひ心掛けてみてください。親子で乗り越えたからこそ得られる満足感や達成感、何よりも信頼関係を深める機会にもなることをお伝えします。
西川ひろ子 安田女子大学・安田女子短期大学
児童教育学科
佐賀大学教育学部小学校教員養成課程卒業、広島大学大学院博士課程前期幼児学専攻修了、広島大学大学院博士課程後期教育学専攻満期退学。幼稚園、小学校、中学校、高等学校までの教員免許を取得。子どもの育ちを繋げる保幼小の連携を研究。発達障がい児のサポートとして県内の保育所・幼稚園への保育アドバイザーを担当。
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