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手話ってどんなもの?いつか誰かの役に立ちたい!

 手話サークルで手話を学び、手話を通じて人の温かさや人間関係の広がりを体験できたと話す井上喜稟さん。手話を学んでボランティア、と聞くと特別なことのように思われますが、会社員の井上さんは些細なことがきっかけで手話の世界に触れることになったと言います。
 今回は、通勤電車から始まった手話との出会いや、手話から始まるコミュニケーションについてお話を聞きました。

通勤電車で出会った「手のおしゃべり」
「毎日のように通勤電車の中で乗り合わせていた聴覚障がい者のおばあちゃんがいまして。その方は、途中から乗って来られる聴覚障害のおじいちゃんと手話で会話をされていたんです。お二人が会話する様子を見ながら何だか温かい気持ちになっていましてね」
 ともすれば見過ごしてしまうような静かなお喋りの様子。朝の通勤電車の中、手話での会話が井上さんの目に留まったようです。

「ある日、いつも乗って来られるおじいちゃんがいなくて、おばあちゃんの隣が空いていました。そうしたら、そのおばあちゃんが私に『こっち、こっち』というように手招きしてくれたんです」
 毎日の通勤で井上さんと顔見知りになっていた年配の女性。席を勧めてくれた優しさに心が緩み、話をしてみたいと思ったものの、その当時の井上さんは手話が分かりませんでした。


地元の手話サークルに入ってみる
 そこで、地元の手話サークルに参加してみることにした井上さん。サークルでは健聴者と聴覚障がい者の方がリクレーションの中で、手話での会話を楽しんでいました。
 聴覚障害を持つ女性を主人公として描いたテレビドラマの影響もあり、手話が静かなブームになっていた時期もあったのだとか。

 サークルでは手話に興味がある人、人との出会いを求めて参加する人、福祉関係の勉強をしている学生の方なども参加していました。
「皆がざっくばらんに話ができて、何だか楽しくなっちゃったんですよ」(井上さん)

手話は難しいものなのでは?
 健聴者が学ぶ手話として、一般には『日本語対応手話』が用いられています。日本語対応手話は健聴者が日常的に使っている日本語の言葉一つひとつに手話を当てはめたもので、語順や文法は日本語と同じです。
 一方、聴覚障がい者同士でよく使われるのが『日本手話』というもの。これは手・指の形だけでなく動きを含めた表現が多く、健聴者にとっては複雑で速さを感じることがあると言います。

 この他、年齢や地方によって手話表現方法が違うことがあるため、初めは取っ付きにくい感じを受けるかも知れません。
 しかし、井上さんによれば、手や指の形や動きには意味があり、その意味を知ることで手話の語彙は派生的にどんどん増やせるのだそうです。

例えば、手話ってどんなもの?
「『昼のこんにちは』、『夜のこんにちは』では、少し違う表現になります」(井上さん)
 例えば、昼のこんにちは、の表現は、チョキの形を作った指を額に当ててから、両手の人差し指を折り曲げる動きをします。

また、夜のこんにちは(=こんばんは)では、両手を車のワイパーのように顔の前に向けて振り下ろして日が暮れる仕草と、お辞儀をする様子(②)を組み合わせます。

このように一つの言葉に対して当てられた手話の語彙が存在している他に、「あ・い・う・え・お」などそれぞれの音を当てる指文字もあります。これは表音文字の一種で、新しい単語や読み方などを表現できます。

小文字のaをイメージする《あ》の指文字

iをイメージする《い》の指文字

Uをイメージする《う》の指文字

eをイメージする《え》の指文字

Oをイメージする《お》の指文字

このように、ローマ字の形からイメージできる指文字の他にも、連想ゲームのようにユニークな指文字もあり、学ぶ楽しさを味わえそうです。

1000(千)を連想させる《ち》の指文字

カタカナのツの形に由来する《つ》の指文字

手話がコミュニケーションの全てではないということ
 生まれた時から聴覚障害がある場合や、健聴者であっても家族に聴覚障がい者がいる場合には、成長と共に手話を母語として獲得していきます。しかし、病気や事故で聴覚を失った中途障がい者の場合、手話だけでコミュニケーションを取るのが難しいことがあります。

 また、聾重複障害のうち盲聾重複障がい者(盲ろう者)の場合でも、生まれつきの場合と中途障害の場合、あるいは障害状態となる順序によって、コミュニケーション方法は異なるというお話もお聞きしました。
 例えば、聴覚障害を持って生まれ、途中で視力を失った場合、目で見て判断していた手話を触覚判断に代えた『触手話(しょくしゅわ)』(※触読手話・しょくどくしゅわ とも言います)が使われます。
 逆に視覚障害を持って生まれた人が途中で聴覚を失った場合には、点字に代わる『指点字(ゆびてんじ)』を使ったコミュニケーションも存在しています。
井上さんによれば、弱視、視野狭窄がある場合には『接近手話』もしくは『弱視手話』を使うこともあるそうです。明る過ぎる場所で見えづらい方には場所や光の当たり方に配慮し、読み取りやすいよう工夫するとのことでした。

  このように、単純に「聴覚障害」「重複障害」をひとくくりにすることは難しく、障害の程度や障害状態になった経緯によってコミュニケーションの方法は変わってくるそうです。

その中で『筆談』は健聴者にとって取り組みやすいコミュニケーションの方法です。
 こちらは最近、役所の窓口などで目にすることが増えた『耳マーク』。聞こえが不自由なことを示すと同時に、聞こえない人、聞こえが不自由な人への配慮を示すマークです。このマークがある場所では筆談などによる聴覚に障害がある人に配慮した対応を行っています。

筆談用のメモがなくても、
「自分の指で相手の手のひらに書いたり、それを読み取ったりすることもできます。これは聾重複障がい者とのコミュニケーションでも使える方法です。特別な勉強や訓練をしなくてもコミュニケーションを取る方法はあります」(井上さん)
 
 私たちの身の回りには言語以外にも様々なコミュニケーションの方法が存在しています。コミュニケーション手段は多様であること、状況に応じて使い分けられていることを知っておくことで、世の中はもっと自由で豊かなものになりそうですね。


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