5月21日(土) 午前10時25分 放送
<日本で進まない移植医療、その実態と背景とは?>
広島市の高校教師・森原大紀さん。体力には自信があったが、26歳の時に突然体調を崩す。告げられた病名は、1万人に1人と言われる難病「特発性拡張型心筋症」。生きるために残された道は、心臓移植しかない。体に埋め込んだ「補助人工心臓装置」で命をつなぎながら、移植の順番を待つ長い日々が始まった。
日本で心臓移植を待つ人は年間約900人。それに対して臓器提供者(ドナー)は50人程度。肺や腎臓など他の臓器も含めると、年間約1万5000人がドナーを待つという厳しい現実がある。「臓器移植法」施行から25年が経つが、欧米諸国と比べると日本の移植医療だけが極端に進んでいない。
亡くなった人からの臓器移植は、ドナーが「心停止=死亡」した場合と「脳死」した場合の2つがあるが、日本では「脳死は臓器提供する場合に限り“人の死”とする」とされている。つまり、「死」の定義が2つあるのだ。これが、残された遺族を苦しめる。
実際に家族を亡くし、その臓器を提供した人たちがいる。決断を後押ししたものは、故人の「生前の意思表示」だった。夫の臓器を提供した女性は、「『脳死は人の死じゃない』と言われることがある。だったら私が夫を殺したんだと思いますね」と、葛藤と重圧を語り、「“人の死”は医療側が決めてほしい」と願う。
移植医療についてより多くの人に考えてほしいと実践的な活動を続ける医師もいる。救命救急医として脳死や臓器移植に携わった経験を持つ福井英人さん。現在おこなっている訪問診療の際、患者やその家族に、「死を迎えた時に臓器提供をするかどうか、その意思表示を生前にしておいてほしい」と折々に声をかけている。
番組では、患者・医療従事者・ドナー家族などを幅広く取材。日本の移植医療が進んでいないのはなぜか、問題点と課題を探った。そこから見えてきたのは、自らの死に向き合い、「人生の最期」について考えることの大切さ。「命のバトン」をつなぐことのできる社会にするため、私たち一人一人ができることとは。