第32回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
2023年5月27日(土) 午前10時25分~11時20分
主に中国地方に生息する国の特別天然記念物・オオサンショウウオ。昨年4月、河口から約4.5キロしか離れていない原爆ドームの前でその姿が発見され話題になった。“清流のヌシ”と呼ばれるオオサンショウウオが、なぜこのような都会の真ん中にいたのか。広島大学で生態の研究をする清水則雄准教授を取材する中で見えてきたのは、コンクリートで囲まれた川に生息する特別天然記念物の“過酷な実態”だった。
近年、度重なる豪雨災害によって、繰り返される護岸工事。その影響でオオサンショウウオたちは住みかを失い、下流へと流されている。さらに、水を貯えるために人の手によって作られた “堰(せき)”の存在が上流に戻ろうとする彼らの行く手を阻む。その結果、下流へ流されたまま元の場所に戻ることができず“清流のヌシ”が都会の真ん中に姿を現したのだった。
この状況に追い打ちをかけるのが、昨年広島県で初めて発見された “交雑種”の存在だ。大型で凶暴な交雑種は、在来種の「住みか」や「えさ」を奪っているのだった。清水さんはこのまま増え続けると、生態系が崩れて取返しのつかない未来がくると案じる。さらに、この“交雑種”について行政側も保護すべきか、処分するべきかの明確な答えを出せていない。同じオオサンショウウオに変わりない “交雑種”を巡って清水さんが下した決断とは。
生きた化石ともいわれるオオサンショウウオ。しかし、今や人間が手を貸さなければ自然界を生き抜けないほど環境が変化し、絶滅の危機に瀕している。
「繋ぐ命と扱う命」 動物たちを思うからこそ、何度も選択を迫られ、様々な葛藤と戦う。しかし、どんな命であれ感謝の気持ちを忘れず向き合ってきた清水さん。今ある以上の自然を後世に伝えていくために、もの言わぬオオサンショウウオの叫びを代弁していく。
【清水則雄 (広島大学総合博物館准教授) 】
生き物の標本の保存・管理方法を学生に教える。12年前からオオサンショウウオの保護活動を行う。