人類史上初の被爆地・広島の放送局として、開局以来、核兵器廃絶と平和の実現を目指して番組を発信してきたテレビ新広島(TSS)が、2023年11月30日(木)から、「Hiroshima Peace Program TSSアーカイブプロジェクト」の第8弾作品として、TSS報道特別番組『アイ アム アトミックボム サバイバー ~小倉桂子が伝え続ける理由~』(2023年8月6日放送)を世界に向けて配信する。
TSSアーカイブプロジェクトとは、“被爆地・広島”を知ってもらうため、原爆をテーマにした報道特別番組に英語字幕を付けて世界配信を行う平和推進プロジェクトで、争いのない平和な世界の実現を目指すとともに、戦争によって街が破壊され、愛する人たちを失った紛争地域の方々にも、戦禍を乗り越え、緑に包まれた広島の姿を観ていただくことで未来への希望を見出してもらいたいという願いを込めている。これからもTSSは、広島の放送局として、被爆地の情報を発信していく。
【番組内容】
被爆者の高齢化が進み、被爆者たちは「自分に残された時間」と対峙している。2021年3月からカメラが追いかけたのは、小倉桂子さん(86)。英語で被爆証言をする数少ない語り部だ。今年5月、G7広島サミットで各国首脳との面会にひとりで臨み注目された。
小倉さんは、8歳のときに爆心地から2.4キロの牛田町で被爆している。多くの被爆者もそうだったように、彼女も長い間、日本国内で自らの被爆体験については口を閉ざしてきた。過去を語ることは心をえぐられるような思いであり、家族への差別も恐れていたからだ。結婚して専業主婦として、家族と幸せに暮らしていた。しかし、広島平和記念資料館の館長を務めていた夫が、平和宣言の草稿執筆中に急死。夫と交友のあった海外ジャーナリストからの後押しもあり、夫の遺志を継いで被爆証言者の通訳をするようになる。独学で必死に英語を学び直す日々、彼女の暮らしは一変した。
さらに、証言活動を始めた頃は通訳に徹していた彼女だが、ある時広島を訪れた外国人から「通訳では時間がもったいない。質問をする時間がなくなるから、桂子の被爆体験を聞きたい」と懇願されたことをきっかけに重い口を開くことに。それからは「見えない苦しみを伝えられるかもしれない」と、自らの被爆体験を伝えるようになった。夫の死後、年間2,000人のペースで約40年間、国内外へ発信を続けてきた。
そして今年5月、G7広島サミットでの各国首脳への被爆証言、さらに電撃来日したウクライナのゼレンスキー大統領との面会が急遽決まる。この歴史的瞬間に被爆者それぞれが強い思いを持つ中、彼女はこの大役を引き受けることに「荷が重すぎる」と葛藤した。それでも覚悟を決めてたったひとりで重責を担った3日間に密着。
コロナ禍の2年半、被爆者・小倉桂子は何を思い伝えてきたのか、
そして平和のバトンを渡された人たちは何を受け取ったのか。
被爆者の今と継承を描く。
【スタッフ】
- 構成
- 岩井田 洋光
- 題字
- 濵崎 壽賀子
- ナレーション
- 岡田 将生
- 紙芝居朗読
- むかい さとこ
- アメリカ取材協力 コーディネーター
- 岩崎 美幸
- 撮影
- 山田 大介
- 音声
- 村上 和弘
- 英語監修
- ポーリーン・ボールドウィン
- ロシア語監修
- 高矢 イリナ
- MA
- 講﨑 友蔵
- 取材音声
- 松山 阿祐美
- EED
- 須山 葉子
- 美術
- 吉村 亮二・林 佳預子
- CG
- TSSソフトウェア
- 広報
- 好中 奈々子
- 編集
- 山本 龍
- 英訳版編集
- 吉村 美紀
- 英語翻訳
- アクアマリン プロダクション
- ディレクター
- 石井 百恵
- プロデューサー
- 黒川陽央
- 取材協力
- FNN取材団・TSSプロダクション
- 制作著作
- TSSテレビ新広島
【ナレーション】
岡田将生(おかだ まさき)
僕は誕生日が終戦記念日で、いつか平和について自分にもできることがあれば何か作品として関わりたいなと思っていました。この作品では、小倉さんの気持ちをナレーションとして背負ってというか、寄り添って、この出来事を伝えたいという思いで今回のお話を受けさせて頂きました。
ナレーターとして言葉を操るのはとても難しいことでした。だからこそ小倉さんがメディアの前でメディアの方々に「正しいことを伝えてほしい。メディアに関わる人間には責任がある」と伝えるシーンには、ものすごく重みを感じました。自分自身その重みをかみしめながらやろうという気持ちで臨んだので、この作品を見る方々にも本当の事実をかみしめながら見てもらえればと思います。
【取材】
ディレクター:石井百恵(いしい ももえ)
小倉さんとの最初の出会いは、夕方ニュース『TSSライク!』の取材先に小倉さんが被爆証言に来られていたことでした。 その人間力と言葉の力に魅せられ、映像に残さなければという思いに突き動かされました。 取材を続ける中で小倉さんのそばにいると、いつの間にか人が集まり、次から次へと何かが起こります。私は自然とそれを追わずにはいられませんでした。「私の役目は、若い人の心のろうそくに火を灯して、私がやらねばという気持ちを起こさせること」と小倉さんはいつもおっしゃいます。 私もいつの間にか、火を灯された一人なのだと思います。気が付けば番組になっていました。
平和公園にある慰霊碑には"過ちは繰り返しませぬから"という碑文が刻まれていて、小倉さんたち被爆者は「もう誰にも自分と同じ思いをしてほしくない」と伝え続けてきました。しかし今、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、それが揺らぐ事態となっています。今こそ、見えない苦しみを抱えてきた被爆者の声に耳を傾けてほしいです。 2年半の間、小倉さんは国内外でたくさんの平和の種蒔きをしてきました。小倉さんのメッセージを、番組をご覧になった皆さんにも受け取っていただきたいです。それをきっかけに、心に芽吹くものがあり、いつか花開くことを願っています。
《プロフィール》
2000年に(株)テレビ新広島にアナウンサーとして入社。「めざましテレビ」の広島からの中継やスポーツ番組のMCを6年間担当。2003年からは、夕方の「TSSスーパーニュース」キャスターを10年間務める。2004年FNSアナウンス大賞を受賞。2011年から安田女子大学で非常勤講師を務める。2015年報道部へ異動。移動後は、市政担当、夕方のニュース番組「みんなのテレビ」のPD業務を担う。現在は、子育てやSDGsのコーナーなどを担当する。2022年に臓器移植をテーマにしたドキュメンタリー「命のバトン~移植後進国ニッポン~」を制作。日本民間放送連盟賞中四国ブロック報道部門優秀賞を受賞。また、移植医療をテーマに「LINE」ニュースで配信したコラボ記事で、2022LINEジャーナリズム大賞を受賞する。「アイアムアトミックボムサバイバー」は自身2本目のドキュメンタリーで、2023年第61回ギャラクシー賞上期テレビ部門で奨励賞を受賞した。