2020年11月26日(木)
【子育て支援シリーズ】もう読んだ?『シェーラ姫の冒険』
スマホの時代、「読書の秋」は、もはや死語でしょうか。スマホばかり見ている子どもたちに、読書の楽しさや本の中に広がる素晴らしい世界のことも知ってもらいたいですね。厚生労働省では、子どもたちの健やかな育ちと豊かな想像力のために、子どもたちに読んで欲しい本を「厚生労働省 社会保障審議会 児童福祉文化財」として選出しています。今回は、令和元年度の推薦作品の中から、『シェーラ姫の冒険』をご紹介します。
石に変えられた故郷を元に戻すべく、伝説の魔法の杖を求めて、7つの魔法の宝石を探す旅に出たシェーラ姫とファリード、ハイルの子どもたち3人は、大切な人々との出会いを重ねて冒険を続けます。仲間と力を合わせてさまざまな苦難を乗り越えていきます。そしてついに、7つの宝石が揃い、魔法の杖を手に入れるのですが、さらに大きな試練が襲いかかります…。生きること、それは、大切な人を愛すること。仲間を信じること。
*書 評*
「シェーラ姫と冒険」 佐竹 美保
※童心社発行の小冊子「母のひろば」659号より
今回の愛蔵版のための表紙絵とロ絵を描くにあたって、20数年ぶりに、物語を再読しました。かなりの年月を経ているのに、シェーラ姫は相変わらずかわいくて、勇敢で、やさしくて、食いしん坊のお姫様です。彼女の旅に加わっていく仲間達の、シェーラ姫を慕う心の様も物語の中にキラキラと紡がれています。
少しびっくりしました。還暦を過ぎた私が、過去の仕事の物語を読み返せば、きっと俯瞰した読みになると思っていましたから。砂漠を歩くシェーラとファリードとロバのシーンから始まるやいなや、いっきに物語の同行者になってしまいました。先が分かっているのにハラハラどきどきです。
さて、10巻分の冒険の後、表紙絵を考えるのですが、本全体を包み込む絵のイメージは意外にはやく出すことができました。文庫版では表すのが難しかった、冒険がくり広げられる大きな世界、印象的な異国の風景をいくつかのパーツに分けて並べました。分かれていてもなんとなくつながっているように描くことで景色が広がり、時の経過も感じてもらえるような形にしました。文章では分かりにくいと思いますので、ぜひカバーをはずして広げてみてください。
そして大きな問題は、キャラクターの顔でした。昔からそうなのですが、同じ顔が描けないのです。このシリーズを描いている間ずっと問題でした。同じ顔を描くために、新しい巻の仕事が入るたびに1巻目からそれまでの巻を広げて見ながら描いていました。それが20数年ぶりですから胃がキュッと…。
愛蔵版の表紙絵で飛ぶシェーラの顔は、何度もなんども描き直した後の納得の顔です。文庫版のときよりも幼くなってしまったのは否めませんが、もはや孫のシェーラ姫という感覚なのです。
表紙絵上下に大きく魔神ライラが飛んでいます。再読した後ライラの存在感がとても強く残り、描かずにはいられなかったのです。命のないシェーラ姫を身をもってこの世に戻したライラ、よくぞ孫を助けてくれた! という気持ちです。下巻の口絵は、ライラの王国のお城にある部屋です。村山さんはこの場面をとても優雅に、きらめく宝石のような文章で書かれています。ここをカラーで表現してみたいと思いました。想像力は無限ですが視覚化には限界があります。そこに近づこうと描くわけですが、それよりも描く楽しさをあらためて感じた場面です。
よく出会う方々からこんなことをいわれます。
──私、シェーラ姫を読んで育ちました──。とてもうれしいことです。